命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業
イチロー・カワチ
世界トップクラスの平均寿命を誇る日本。その理由はソーシャルキャピタル(社会関係資本)にある。つまり、人びとの「絆」や「お互い様」といった日本語表現にもみられるような人間関係が、ひとの健康に大きく影響しているという。
パブリックヘルスは川の上流で何が起きているのか、鳥の目で俯瞰することによって、人びとの健康に与える要因を見定める。なぜ、アメリカでは健康意識が高いひとが多いにもかかわらず、不健康なひとが多いのか? という疑問を追ってきた著者は、まず格差の問題を挙げる。所得が健康に与える影響というのはわかりやすいかもしれないが、実は所得が多いひとにとっても、格差があることによって健康に悪影響がある。
所得格差は健康格差に直結する。そして、その影響は次世代にも引き継がれる。低所得の親の子どもは肥満になりやすく、糖尿病、うつ病などの罹患率も高くなる。筆者は所得の再分配は健康政策でもあるという立場だ。
また、12年以上教育を受けた場合と、そうでない場合には死亡率に2倍もの差がつく。幼少期の教育は100万円投資したとすると、年間17万円もの利益が出るらしい。ほかに、マシュマロテストやペリー就学前プログラムなどを引きつつ、早期教育の重要性を訴える。
なぜ不健康なひとが多いのか? 1つには健康に影響を与える民間企業の努力があるという。ここには、ひとは必ずしも合理的にものを考えるようにはできておらず、その時々の直感や感情によって行動を決定している、ということが関わっている。そこを巧みに利用してきた民間企業の広告・宣伝の力が、人びとの不健康に一役買っている。行動変容には個人の思考、心理によるところが多いと思われてきたが、実は身のまわりの人々や、環境によって意思決定していることが少なくない。そこで、社会全体として人びとの健康リスクを下げる取り組み(ポピュレーションアプローチ)が必要になってくる。
さまざまな興味深いデータを示しながら、ひととひととの関係性が、個人の健康、ひいては人生の幸福につながる、という主張と読んだ。すこし日本を褒めすぎな気もした。
(塩﨑 由規)
出版元:小学館
(掲載日:2022-07-20)
タグ:健康 格差 公衆衛生
カテゴリ その他
CiNii Booksで検索:命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業
e-hon