ないもの、あります
クラフト・エヴィング商會
人のイマジネーションってすごいと思います。「想像」とは必ずしも虚構であるとは限りません。物質的にはなくても頭の中で想像すると確かに存在することってたくさんあると思います。「-1」なんて数字は物質的には表すことはできないと思います。もちろん証明は可能でしょうが「物」としてないものはないのです。人の感情や意識なんて「物」としてはありません。しかしそれを否定する人はいないはず。
「堪忍袋の緒」「口車」「思う壺」「冥土の土産」など書いてみれば「物」として存在しそうなんですが決して存在しないもの、それを商品として売ろうっていうんですから何やら怪しげ。「クラフト・エヴィング商會」という架空のお店を立ち上げ想像の産物を売るという企画。あくまでも本書は商品カタログの体裁となっているのがポイント。
絶妙のセールストークで次々に商品を売り込んでくるんですから読者の私たちも心して聞かなければいけません。言葉巧みな売り込みは一流セールスのそれ。私もかつて営業のお仕事をしていましたが、そのとき先輩や上司から教わったのは絶対に嘘はダメということ。メリット・デメリットをきちんと説明した上で取引相手が納得しないと長期的な取引はしてもらえないと叩きこまれました。もちろん本書のセールストークもそのあたりはきっちり押さえてあります。本当にこんな商品があったら欲しいなと思った時点で、術中にはまっていたんでしょうね。
商品となった言葉の本質にあらためてうなずくばかり。想像力の豊かさと淡々と語られる商品説明には思わず身を乗り出してしまいます。こんな面白い商品カタログは初めてです。
最後に掲載された赤瀬川原平さんのエッセイ「とりあえずビールでいいのか」も秀逸。
(辻田 浩志)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2013-09-06)
タグ:遊び 言葉
カテゴリ フィクション
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