舞踊・武術・スポーツする身体を考える
中村 多仁子 三井 悦子
身体体験や感覚を言説化・言語化することの難しさは、スポーツに携わる者でなくとも日常生活の中でしばしば感じることである。病院で医師に症状を説明するとき、ブティックで服を試着したときetc…。だからこそ、擬音やボディーランゲージを多用した長嶋茂雄のバッティング指導などがユニークに紹介されたりもするのだろう。
本書はスポーツや舞踊、武術を主な素材に、それぞれのフィールドの専門家がそうした身体感覚の言語化を試み、語り合った14時間に及ぶディスカッションの様子を記録した一冊である。
とくに、女子体操で2度のオリンピックに出場、メダルも獲得しているだけでなく現在は地唄舞の名手としても名高い中村多仁子氏の数々のエピソードやそれに基づく発言は非常に興味深い。金メダリストのベラ・チャスラフスカも評価した、日本的で抽象化された動きの分節や表現、そのチャスラフスカなどとは対極にある「体操の技をする体型」につくり上げられたコルブトら東欧の選手の身体への違和感、そして地唄舞における所作や動作感覚といったものから世阿弥の『風姿花伝』の解釈に至るまで、難しい表現を用いることなく丁寧に解説、言語化してくれている。
素人に毛が生えた程度とは言え、舞踊やスポーツを学んだことのある身としてもそうした作業の難しさをしばしば感じていただけに大いに納得させられる表現が多かった。
また、冒頭から語られ、ディスカッションを通じてのキーワード、キータームともなっている「主体的に○○される」という一見矛盾しているかのような言葉も、スポーツや舞踊のみならず、時には生活全般においても当てはめることができる事象の捉え方として深く印象に残るものである。
いずれにせよ、スポーツ科学、とくにストレングス&コンディショニングやフィットネスと呼ばれる世界に身を置くわれわれ指導者にとって、数字や映像といったデータが重要な事は言うまでもないことだが、こうした「言語」もまた避けて通れない領域なのだと改めて考えさせられる一冊である。
(伊藤 謙治)
出版元:叢文社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:舞踊 武術 身体
カテゴリ 身体
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