気象で読む身体
加賀美 雅弘
「腰が痛むからもうすぐ雨が降る」たまにこんなことをいう人がいますが、雨の日とか寒い日とかには痛みを持つ人は敏感になります。世間一般では漠然とこのような話を聞きます。ところが先端医療の現場で気象との兼ね合いで治療を進めるといった話はあまり耳にしません。基本的に気象という条件は考慮されることがないというのが現状のようです。本書は気象と人の身体の関係をテーマに具体的な問題について多方面から分析をしています。
意外に古くから気象と身体の関係については研究があったそうです。20世紀の初めのころから世界各地でさまざまな試みがされていて、ドイツでは医学気象予報が現実にあるのを知り、驚きました。わが国でも気圧と喘息の因果関係の研究が進み、馴染みの深いところでは天気予報の花粉情報も気象と身体の関係をわれわれに教えてくれます。
このように一部で研究が進む一方、本書では医学者が身体を気象から切り離し天気という条件に目を向けることがないのでさらなる実用化が進まないという問題点を指摘しています。曖昧なものは対象としないという現代医学の性格上やむを得ないかもしれません。また病気を治すということが第一義的になる半面、健康を維持するという予防医学がどうしても遅れがちになるという面も指摘します。
それでもヒポクラテスの時代から気象と身体の関係について考えられ「生気象学」という学問が近年生み出され、気象と身体の関係が科学的に研究され、進行中とのこと。われわれの日常生活とは切っても切れない冷暖房と身体の話、自殺と季節の関係、誰もが知りたい脳卒中になりやすい環境など、読めば読むほど興味深い項目がいくつもあります。
もっと知りたいことがたくさんあります。本書では研究が例示的に紹介されるにとどまり、なるほどと思うような理論や仮説はありません。おそらくまだまだ解明されていない事柄も多いのでしょう。そういう点ではさらに研究が進み体系化することを願わずにはおられません。研究対象があまりにも深遠なので困難な研究なのはわかりますが、まず多くの研究者の意識がそちらを向くことの必要性を感じます。
読み終えたとき、人の身体も自然の一部ならば気象などの自然現象と切り離して考えることが非合理的だとさえ思えてきました。
(辻田 浩志)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-15)
タグ:気象
カテゴリ 身体
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