情報文明の日本モデル
坂村 健
直接スポーツ医学とは関係がないが、本誌で片寄氏が連載しているテーマと重なること、また誰もがITを避けて通れない時代であるため、この本を選んだ。副題は、「TRONが拓く次世代IT戦略」。
TRON(The Real-time Operating system Nucleus)を考案した著者の最新刊の書である。TRONはすでに携帯電話などで広く実用化されているオープンシステムであるが、ここでは、それについてより、別の観点で興味深いところを紹介しておきたい。
著者は冒頭、「アメリカ・モデルを追いかけても意味がない」と言い、IT革命で世界をリードしたアメリカを見習う論調に首をかしげる。2000年1年間でアメリカのドットコム企業は220社以上が廃業、2001年は8月までで410社以上が破綻。ウェブでの無料サービスも、無料ニュースサイト、無料プロバイダもすべて失敗。このモデルを追求しても、だめだ。日本のモデルを創造することが必要だと言う。
そこで、著者は遺伝子研究から、脳内物質のセロトニン受容体が少ない人は保守的で、新しいものに挑戦したがらないという傾向が強いという結果を掲げ、そのセロトニン受容体が少ない遺伝子を持つ人はアメリカでは全体の約50%、日本では90%以上にのぼるという事実(どう確かめたかは不明)を挙げる。だが、日本はチームでやれば、独創的なこともやってのける。そのよさを活かそうと言うのだ。
また、多くの人がよく指摘する日本人の戦略のなさ。これについて、「それ以上に問題なのは、戦略の前提として『何のために勝つのか』という哲学もないことである」と喝破する。
スポーツでは「勝つために」がすべてのことが多い。「何のために勝つのか」と問う人はいない。勝つことを目標とするのが、スポーツだからだと。だから、負ければ終わりだが、勝っても終わりである。それもよさだが、一度は「何のために勝つのか」と考えてもよいかもしれない。
意外にこの本、情報だけを扱ってはいない。いや、そもそも「情報文明」とはそういうものだということだろう。
新書判 226頁 2001年10月29日刊 600円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
出版元:PHP研究所
(掲載日:2001-12-15)
タグ:情報
カテゴリ その他
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