勝利をつかむコンディショニングBOOK
坂詰 真二
本書の英語タイトルは「SPORTS CONDITIONING BOOK」だが、どうもこの“スポーツ・コンディショニング”という言葉を聞くにつけ本来の“コンディショニング”の意味を忘れてしまいそうで不安になる。本書にも「コンディショニングの解釈として、文字通り疲労や痛みを取るなど『心身の調子を整える』という『調整』としての意味でのみ使われることもあります」と一応断り書きはあるのだが、ここでは、積極的な体調管理方法、あるいは競技力向上を意図した一種のトレーニング用語として“コンディショニング”を定めているようだ。
しかし、もともと“コンディション”という言葉は我々の日常生活と密着したところで生まれたわけで、したがって本来は、「今ある快適な状態(コンディション)をそのまま維持する」とか、「自分の生命維持にとって最良と思われる環境を整える」といった比較的穏やかな印象を与える意味の説明が適当であると思う。つまり、もともとの“コンディショニング”という言葉には、マズローによる欲求段階説にもあるように、人間には、群れるといった集団欲求や理想を実現しようとするような高級あるいは積極的な欲求以前に、生命を守るために必要な衣食住環境を整えたり、これらを未来に向けて維持していこうとする安全保障欲求といった、いわば自らの“種”を保存するために最適な環境を整えるという意味合いが濃厚に含まれると考えてよい。ということは、最良のコンディショニングとは人間の生命力、簡単に言えば寿命を延ばすことであると言えるのではないだろうか。
今私の手元に『人間の強度と老化―人間強弱学による測定結果』(山田博 著 NHK放送出版協会)という本がある。この中で著者の山田博士は、身体の個々の器官や組織の強さを研究することによってその総合体である人間の寿命を予測できるとした。その結果、理想的なコンディショニングが維持されれば110歳までは誰でも生きられると予測したのである。
スポーツとコンディショニング
スポーツ活動は必ずしも種の保存を約束するものではない。また、必ずしも寿命を延ばすわけでもない、とも言える。たとえば、人間にはなぜ老化や寿命があるのかについては諸説あるようだが、その中に「エラー説」というのがある。このエラー説とは、細胞が分裂を繰り返していく間にその細胞内にエラーがたくさん積み重なって、それが結果的に老化を招いて死んでしまうというものらしい。実はこのエラーを増大させる原因は我々の周囲にたくさんあって、その中のひとつに酸素がある。酸素はご存知のように我々にとってエネルギーを得るのに必要不可欠なものだが、最終的には還元されて水となる。ところが、このとき還元されない酸素もあるようで、還元されないと過酸化水素等の活性酵素として体内に残存するのである。そして、この活性酵素がDNAや細胞膜を傷つけ細胞が死んでいき、延いては「死」に繋がるというわけである。とすれば、スポーツ活動時の大量の酸素摂取は果たして「コンディショニング」と言えるかどうか疑問が残る。
こう考えてみると、スポーツという行為とコンディショニングを整えるという行為は必ずしも同じ方向を向いた行為と捉えるのは難しい。むしろ、寿命を短くするかもしれないスポーツに対してコンディショニングという本来の寿命を確保する目的を持った手法を使って初めてスポーツの持つマイナス要因が補完されるというのが、スポーツ・コンディショニングの正しい解釈なのではないかと思う。こういった視点をもって本書を読み解いていくと、後半に筆者が「スポーツ疾患の予防と対応」や「リコンディショニング」の章を立てた理由がより一層理解しやすいと考えた。
本書には、休養期、体力期、技術期、戦術期、調整期等の各期におけるコンディショニングの方法が図表や豊富な写真を使って懇切丁寧に説明されている。この頃は喜ばしいことに、こういった専門的知識を取り入れて正しいトレーニングを身に付けようとする人々が増えてきたように思う。本書にも、そこのところを意識して本づくりに励んだ努力の跡が随所に見られる。本当に、スポーツを愛してやまない人間が書いた、まじめな一冊である。
(久米 秀作)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2005-08-10)
タグ:コンディショニング
カテゴリ スポーツ医科学
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アスリートファイター読本 新世紀格闘技BOOK
坂詰 真二
シュートボクシングのトレーナーでもある著者が、すべての打撃系格闘技に使えるトレーニングやコンディショニングを「体調面」「体力面」「技術面」「心理面」に整理し、読本としてまとめた。また、技術面がある第3章を映像化したビデオ「アスリートファイター」もある。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:福昌堂
(掲載日:2001-05-10)
タグ:格闘技
カテゴリ トレーニング
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