問いかけの作法
安斎 勇樹
読み始めると冒頭に「誰も意見を述べないお通夜ミーティング」というくだりがありました。「自由に意見を言ってください」「アイデアを出してください」とリーダーが呼びかけてもシーンと静まり返ったまま。多くの方が「あるある」と思われたことでしょう。私自身もご多分に漏れずこういったミーティングや会議を経験しています。私の場合、最悪だったのはリーダーだったことも多く、こういう事態を想定して自分自身が用意していたアイデアをご披露し、反対意見もなくシャンシャンで終わったものでした。これってミーティングでも会議でもなくリーダーの一人よがり以外の何ものでもありません。冒頭から昔の経験を否定されたように打ちひしがれながら、それならどうすりゃいいんですか? とばかりに読み進めていきました。
本書の原点がファクトリー型ではなく、ワークショップ型の組織をつくり、構成員全体からのボトムアップによる意見交換をしようというのが主題となります。ファクトリー型とはトップダウンの組織で定型的なモノづくりをしようとする前時代的な組織ととらえ、ワークショップ型はトップの理念と現場の問題点をすり合わせながらモノづくりをする組織と説明してもいいかもしれません。
筆者は一概にファクトリー型がダメでワークショップ型を推奨しているわけではないことを留意すべきです。でないとこの後展開されるワークショップ型の組織の必要なノウハウが膨大なので誤った印象を受けかねません。これからの時代どんな変化が待ち受けているかもしれない不確定な社会の中、従来通りのファクトリー型の組織では変化に耐えられないとの懸念に対抗すべくファクトリー型の組織を提案しているという前提は忘れてはいけません。
筆者がいうところの「孤軍奮闘の悪循環」というのが冒頭にお話しした「ありがちなパターン」なんですが、ボトムアップのファクトリー型のミーティングをするために「問いかけ」をすることによりメンバーの考えを引きだそうとしています。「忌憚のないご意見を」と言われても範囲が広すぎるので、逆に論点を絞った問いかけをすることでメンバー個々の意見を引きだしやすくするというものです。そういってみれば簡単そうに見えますが、「問いかけ」に対する筆者のスキルの高さに圧倒されたのが正直な話。本書を丸暗記して同じことを試みようとしてもミーティングはメンバーや議題などそのときそのときで変わるはずで一から通用するとも考えにくいのです。
私なりに本書を読んでみて筆者のノウハウを実行するために必要なものを考えてみたんですが「俯瞰力」「問題抽出能力」「ユーモア」「観察力」「抽象化と一般化」「状況を整理する力」「自由な発想」「想像力」などいろんな能力が必要だと感じました。
だから「絵に描いた餅」とあきらめるのも選択肢の一つですが、やってみなきゃ何ごともできないのは世の中の理。物まねでも猿真似でもやってみて体験してみたところからしか筆者の言ってることを体感できないでしょう。別にこの本に書いてある方法がすべてではなく、むしろ筆者の体験談が書かれているに過ぎないと感じたらもっと気楽に実践できるかもしれません。そのうちにそれぞれのオリジナルのノウハウが生まれてきてこそ、本当のワークショップ型になったといえるのではないでしょうか。
(辻田 浩志)
出版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
(掲載日:2023-08-28)
タグ:チームビルディング
カテゴリ その他
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