人民服を着た青年海外協力隊員 率先垂範、中国トップマラソンランナーまで育て上げた杉本コーチの実記録
小松 征司
「六・四事件」、通称「天安門事件」を挟んだ1988〜90年の間に、中国(内モンゴル自治区)で陸上競技・長距離選手の指導に「海外青年協力隊員」として携わった杉本和之氏の話と、それにまつわる“異文化交流”が題材となっている。
ドキュメンタリータッチで綴られている内容は、早稲田大学・陸上競技部出身で、近代日本風あるいは体育界気質の運動部で育った中国人学生に暴力をふるってしまったという“事件”が小さな日中問題へと発展していくところから始まる。そして、事態を収束に向かわせるべく渡中した元海外青年協力隊員の著者が、懐深い中国で感じる文化の違いや、妙などをふんだんに織り込んでできあがっている。
1つの事件を取り囲んでいる舞台は、杉本氏を迎え入れている体育工作第二大隊(マラソン分隊)。体育工作第二大隊長、選手たち、著者である小松氏、そして本人が登場する。「なぐった」という事実がある以上、一方的に非があるのは杉本氏なのだが、なんとも真相が曖昧な状況に納得がいかない著者は、思案し解決に導こうとするが、諮らずも中国の慣習となっている答礼宴(招待を受けたら必ずお返しをする習わし)で、当事者同士の和解を見ることとなる。
本音と建前が明確に存在するという中国で、なかなか本音を見出せないでいた著者が、全中国夏季マラソン大会や北京国際マラソンで活躍する杉本氏の“心で走る”姿勢に、当地で協力隊事業を立ち上げた自らを投影させる。スポーツを通して異文化に接することのできる本。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:文芸社
(掲載日:2002-04-10)
タグ:文化
カテゴリ その他
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