運動部顧問・スポーツクラブコーチのための ベストパフォーマンスを引き出すコーチ力
高畑 好秀 小林 雄二
少しずつスポーツの世界が変わろうとしています。選手だけではなく指導者も環境も変わりつつあります。パフォーマンスの向上や試合に勝つという目的のためという理由は変わらないのかもしれませんが、選手と指導者の関係の変化が本書の根底にあるのではないでしょうか。むかしは「師弟関係」という主従関係に近い関係性がスポーツにも持ち込まれ、鍛錬(練習)のみならず、考え方までも弟子に継承するという日本古来からのシステムから、合目的的な観点から組織をマネジメントするという関係性にシフトチェンジしつつあります。さらにスポーツ医科学の発展が必須要素となった現代では座組を変えざるを得ないところまで来ているように見受けます。
さて本書は冒頭で指導者の意識改革を声高に訴えていますが、これは逆に30年40年まえの意識で指導されている方々の多さを表しているのでしょう。スポーツの世界だけではなく指導者は自身の経験があり、それにのっとった指導をされるのがフツウでしょう。しかしながら現役の選手の意識や考え方、技術的な変化、医科学の発展などが変化する以上アップデートができないと多くの面でギャップが生まれます。筆者の考え方は今風の考え方を取り入れるというよりも根底から変えるくらいの意識改革を訴えておられるように感じました。
チームのコンセプトを明確にし全員で共有すること第一に挙げられていますが、特定の一部の選手を育てるという発想と真逆の考え方です。おそらくそういった考え方を具現化するためにコミュニケーションの取り方を細かく解説しているようです。自分の常識が他の人に当てはまらないのが前提となります。考え方が違う人間が多数集まったチームという集団を、同じ方向、同じ考えに導くコミュニケーションはきめが細やかです。驚いたのは寝坊でよく遅刻をするプロ野球選手と話し合ったら、目覚まし時計を使えばいいという結論に至ったというくだりがありました。プロ野球選手といえば最高レベルのアスリートになりますが、そんな人でも目覚まし時計に意識が向かなかったというのは笑えないお話です。スポーツの能力が高くてもそれ以外の意識が低いなんてことはありがちなのかもしれません。意思の疎通は徹底的にやるという筆者の執念みたいなのを感じました。それでいて長い説教はしない。自分の意見を押し付けない。むやみに相手を否定しないなど会社の管理職の人にも読んでいただきたい内容です。
このような接し方を基礎にして選手のモチベーションを上げたり、間違っているときは叱ったりと、これからの時代の指導者は大変な役割を担います。「黙ってオレについてこい」では選手がついてこない時代にお嘆きの指導者もいらっしゃるでしょう。今や指導者が先頭に立って引っ張っていくのではなく、時には先頭に立って時には選手の輪の中に入って、時には最後尾から選手を押して支える。八面六臂の活躍を要求される立場に変わってきたのかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:水王舎
(掲載日:2024-09-04)
タグ:コーチング コミュニケーション
カテゴリ 指導
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