肥満男子の身体表象
Sander L. Gilman サンダー・L. ギルマン 小川 公代 小澤 央
今の時代を生きる私達にとって「肥満」とは健康上の問題であったり、容姿の問題であったりします。ダイエット関連や健康関連の書物はあふれかえるくらい存在しますが、「肥満」を社会的な観点から論じる書物は初めてお目にかかりました。体形という要素はある程度の距離をおいてもそれなりに判断がつくために、その人となりをイメージするには最もわかりやすい要素だともいえるでしょう。そのイメージは単に体格の問題とはかけ離れた人格であったり生殖能力に対するレッテルにまで範囲が広がり、今の時代でいうところのエビデンスがない風評程度の社会的評価がまかり通っていたようです。もちろん今の時代にそういったことがないといえるかといえば答えはノー。
本書には実在の人物から架空の人物まで様々な角度からの「肥満に注がれる目」を解説します。肥満に対する世間の目は時には不合理であったり差別的であったり、しかし一方で根拠もなしに妙に納得できることもあります。子どものころからアニメや漫画などで肥満体の登場人物といえば決まって食いしん坊であったり、鷹揚な性格であったりするイメージが強く、それに異論を唱える人も見たことがありません。現実世界には神経質な肥満体の方もいらっしゃるはずですが、あたかも肥満が人格を表す記号のように描かれていたのは否定できないことです。
過去の物語においては生々しいほどの偏った人格の表象としての肥満が描かれていますが、レッテルを張るという点においてはアニメに登場するほのぼのとしたのんびりした性格と何ら変わりがなく、所詮は五十歩百歩の文化的表象と言わざるを得ません。そして彼らの地位はその物語において決して尊敬されるべきものではなく、快挙を成し遂げたとしても「肥満なのにスゴイ」という表現が多く肥満そのものの社会的地位は下位におかれてきたという指摘は納得です。
さらに本書は過去の「肥満に対する目」から、将来的な扱われ方をも危惧します。肥満に対する目は非合理的で差別的でジェンダー論とオーバーラップさせた見解もあながち大げさともいえなくないような気がします。「人は見た目が9割」という言葉が数年前に話題になりました。これは言葉が流行ったというのではなく人々の潜在意識がそのままだったということに気づくことから、問題解決の糸口が見えてくるのかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:法政大学出版局
(掲載日:2021-12-08)
タグ:肥満
カテゴリ 身体
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