筋力トレーニング&コンディショニング
廣戸 総一
12年前に出版された本である。著者は、さまざまなメディアで取り上げられて話題にもなった『4スタンス理論』の提唱者、廣戸総一氏。本書は私自身、その昔自らのトレーニングの参考にさせてもらった懐かしい一冊でもある。
格闘技団体パンクラスでの活動(トレーナーとしてのみならず、レフェリーも務める)や『4 スタンス理論』、多くの著書などで一般人には比較的知名度の高い廣戸氏だが、4 スタンスどころかストレングスコーチやトレーナーといったコンディショニング部門におけるサポートスタッフが今よりはるかに職業として確立されておらず、さまざまな情報も入手しづらかった1997年の時点においてどのような内容を記していたのだろうか…と久方ぶりにページを繰ってみたのだが、これが意外にもいい意味で「普通」の内容であった。
投、跳、走などの基礎的な運動動作のメカニズムとそれに関与する筋群のトレーニング紹介、ストレッチやテーピング、簡単な栄養学の基礎知識等を自らが指導する当時のトップアスリートの事例とともに解説している様は文字通り「普通」のトレーニング本である。運動動作時のカップリングモーションや筋出力のタイプ分けを、「シーソー理論」や「腹筋型/背筋型」など独特の言語や分類に落とし込んでいる部分ではオリジナリティを全面に押し出して活躍する著者の現在にもつながる「らしい」部分も垣間見られるものの、全体的な内容は一貫して基本に則したものばかりである。そこに通底しているのはあとがきでも自ら言及している「身体に尋ねてみる」ことの重要性を訴える姿勢にほかならない。
12年前とは打って変わって、様々なメディアがたった一つのコンディショニングプログラムに莫大な商品価値を付与してしまう現代では、ありもしない「究極のトレーニング」が濫造されてしまうことが業界の大きな問題になっていることは度々述べてきた。だが、そうした「メディアで御馴染み」の指導者の一人が12年前の時点でこうした基本を踏まえた一冊を記していることに、業界の末席としてもささやかな安心と喜びを感じた次第である。
(伊藤 謙治)
出版元:池田書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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