スピードに生きる
本田 宗一郎
本田宗一郎は本田技研工業の創始者で言わずと知れたカリスマ経営者。以前京セラの稲盛和夫氏に心酔し懇話会に通ったりしたものですが、名だたる経営者に共通するのは哲学をお持ちだということ。ハウ・トゥーの経営方法はあまり聞いたことがありません。時代や業種などバックグラウンドが違えば、方法論はいくらでも変化するからでしょう。だからこそそのときそのときの最善策を生み出すための人としての生き方みたいなものが必要になるのだろうと思いました。
企業は多くの人の集まりであるがゆえに、経営者の哲学が全体に伝わりそれに基づいて動いてこそ、企業が有機体として運営されるのでしょう。
本田宗一郎という人は子供のころからの夢を、強い信念により現実のものとし、本田技研を大企業にまで成長せしめ、さらにその夢が次の時代に受け継がれていきました。折れることも曲がることもなかった子供のころの夢が本田技研という形になったという点で、多くの人の憧れや尊敬を集めたことには違いないのですが、よくありがちな苦労話というよりも、むしろ楽しそうに活き活きと仕事に取り組まれたという印象が強く残りました。
他人の二倍も三倍も働いてとくれば、今のご時世「ブラック企業」のそしりも受けそうですが、遊びも大事だとか、うまく休息をとってリフレッシュなんてエピソードがありました。やみくもな努力よりも効率的な仕事のあり方を奨励されています。あの時代に人並外れた努力で出世し、国民の鑑として扱われた二宮尊徳を古いといって切り捨てることはなかなかできることではありません。
ただしサラリーと引き換えに時間の切り売りという発想ではなく、仕事のときはアイデアを生み出すことに力を注いでおられたようです。そういう考えを会社全体に浸透させることでユニークなアイデアや新しい時代を切り開くための商品開発の土壌をつくることに苦心されたのがわかります。
本書のタイトル『スピードに生きる』というのはオートバイのスピードかと思いきや、経営のスピードであり、アイデアのスピードであり、流行りのスピードであったり、本田宗一郎の経営観の独自性が疾走感にあることが伝わってきました。
発想を変えてみたいときに読んでみると面白い本です。
(辻田 浩志)
出版元:実業之日本社
(掲載日:2017-05-13)
タグ:経営
カテゴリ 人生
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