東大式筋トレ術 筋肉はなぜ東大に宿るのか?
東京大学運動会ボディビル&ウェイトリフティング部
何が正解なのか
アプリのスーパー大辞林で検索してみると、「正解」とは、正しい解答または解釈、とある。また「常識」とは、ある社会で人々の間に広く承認され当然持っているはずの知識や判断力、と解説されている。両者は一致しないことも多いし、この世に絶対的な「正解」というものも多くないと感じる。エビデンスレベルの高い情報も、ほとんどのヒトに対して合理的判断を下す基準にはなっても、例外なく全てのヒトにとっての絶対的真実となるわけではない。「トレーニング理論」にも幾多の領域や主義主張があり、何が「正解」で何を「常識」にすればいいのか判断することは未だに難しい。
本書は日本の最高学府のボディビル&ウェイトリフティング部によるトレーニング指南書である。ここは「関東学生ボディビ ル選手権大会で最多優勝を誇る伝統と実績のある運動部」であり、それは「東大全運動部の中でも別格の成績」とのことだ。そんな彼らは「東京大学は、特別な才能がなくても適切な勉強さえすれば、だれでも入れる大学です」と言い切っている。そして「勉強力は筋力である」という部の教えのもと、「特別な運動神経を必要としない筋トレは、才能がなくても適切な努力さえすれば、着実に実力を伸ばすことができる」と日々鍛錬に取り組んでいる。
「筋トレ法には数多くの実証と高度な理論に裏付けられた、効率的な方法論が存在する」のだから、それを考慮した「適切な努力」をすれば結果はついてくるというわけだ。そのためには現在の自分を客観的に評価分析し、何をすべきかを明確にした上で、正しい対策を考え出すことが前提になる。「頭を使って正しい方策を考えることさえできれば、地道な努力が必ず実を結ぶ」のだから。本書で紹介されるトレーニング方法や栄養補給に関する情報に目新しさはない。おそらく筋力トレーニングに関してスタンダードといっていい内容だ。しかしこの「正解」だと思われる事柄を、極めて高いレベルで「常識」にすれば成果は得られる。彼らは受験でもそれを実行し、東京大学入学という結果を得たのだ。彼らのすばらしい生き方だ。
実行、ましてや習慣化は
しかし、世の中にどれだけ「正解」だと思われることがあふれていても、それを「常識」にできる人は決して多くないように思う。「正解」を求めずに済む言い訳など無数に転がっているし、平和な日本であればそれでも生き延びてはいける。たとえば現状より健康になれる方法は玉石混淆ながらいくらでもあるが、実行できる人は少なく、それを習慣化できる人はさらに少ないように思う。とにかく楽をして結果を得たいんだと思っている人間のほうが多いとしたら、それが本来ヒトとしての「正解」であり「常識」であるべき姿なのかもしれない。だとすれば「適切な勉強さえすれば、だれでも入れる大学です」と 言い切れることは、それだけですでに常識を超えているということになる。
そこまで徹底できないにせよ、よりよく生きるために自分なりに努力を重ねるべきだと考える人はたくさんいる。本書で述べられている「理想の身体なくして理想の人生は実現しない」とも「筋トレができない人間は、人生でも落ちこぼれる」とも思わない。むしろ、これらが言葉の綾だったとしても、多種多様な人間をより広く理解してから、国を背負うような場所に行っていただきたいと感じさせる表現ではある。
ただ、よりよく生きようとする行為が、どんな形であれ己を鍛えることと同義だというのであれば、その努力の積み重ねが「人生を豊かにする」ということは「正解」だと思う。野生動物は己を鍛えないというたとえも聞くが、彼らは生き残るための最低限度のところにいるだけだ。彼らがもし鍛える方法を学び、それで現状より生き抜く可能性が上がり、よりよく生きられるということを実 感できるのなら、彼らの「常識」の中にも鍛えるということが「正解」として定着するかもしれない。
別の意味での「正解」
実は「正解」には、結果的によかったと思われること、という意味もあるのだ。こちらならわかりやすい。自分なりの方法で頑張って取り組んで、その道程を振り返ったとき「ああよかった」と思えることが「正解」なのだ。これなら誰にでも「正解」が得られる。人生を振り返って、大した実績はなくても人様にそれほど深刻な迷惑をかけなかっただけで上出来な人生だったと「正解」にしてもいいし、とにかく他の全てを犠牲にして仕事に打ち込んできたことで「正解」としてもいい。のんべんだらりと好きなことだけをして、それでもやってこれたということで「正解」にしてもまあいい。
だがやはり、個人的には妥協を重ねてばかりでは、そこにはたどり着けないと信じる。誰かの役に立ちたいという意識も持ち続けたいし、大切なことを大切だと言える自分でいたい。だから筋トレや他の方法で身体も鍛えれば、自身のやり方で自己向上に取り組んでいる。最期にああよかったと思えるように、自分の「正解」を「常識」にできるように生きていきたいものだ。
(山根 太治)
出版元:星海社
(掲載日:2017-07-10)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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