信念を貫く
松井 秀喜
筆者である松井秀喜氏は、ベースボールのスター選手である。日本のいち野球選手のみだけで語られるのではなくグローバルな選手と思うのは私だけでないでしょう。だから野球というよりもベースボールという表現をさせてもらいました。私自身は40代に入ったばかりですが、自分自身の20代30代の年表の中に彼の活躍している姿を照らし合わせることができる数少ない選手のひとりであることも、その理由のひとつでもあります。
この本は筆者の新天地に立ち向かう心境が様々なエピソードを交えて書き綴られています。ワールドチャンピオンそしてワールドシリーズのMVPに選ばれるという、アスリートとして絶頂期を迎えたのと同時に、選手生活の新たな1ページをつくるための決断として新天地に移籍するという人生の中の大きなターニングポイントで書かれました。題名にもある「信念を貫く」ことによって、もたらされた思考の変化や出会いを自分にも置き換えながら、私はこの本にのめり込んでいきました。
「コントロールできることとコントロールできないことを分けて考える」というフレーズはとても印象に残っています。自身も間違いなくそうですが、人間はそれほど器用でなく欲深いと思っています。何でもコントロールできることとして考えてしまう。そこには信念を貫くことが良くも悪くも作用していると感じています。だからこそコントロールできるかどうかを分けて考えることはとても大切だと感じました。
また筆者自身、様々なタイミングで人や言葉の出会いに遭遇しています。
両親をはじめとする「家族」、高校時代の恩師である「山下智茂氏」、巨人時代の監督である「長島茂雄氏」、ヤンキース時代の監督である「ジョー・トーリ監督 ジラルディ監督」、チームメイトである「広岡勲氏・ロヘリオ・カーロン通訳」など。
結果を出す上での「肉を斬らせて骨を断つ」、ケガで不安な状況になったときの「前よりも強くなる」、高校時代の恩師からの「心が変われば行動が変わる/行動が変われば習慣が変わる/習慣が変われば人格が変わる/人格が変われば運命が変わる」、父からの「人間万事塞翁が馬」
言葉や出会いというものが筆者自身の成長に大きく繋がっていることはこの本からもの凄く伝わってきます。すなわち私自身はこの本との出会いが新たな信念を貫くことへの何かを吸収させてもらったわけであります。
この本を読み終えたとき、私はあるエピソードを思い出しました。自分の身近に「信念を貫く」ことに限りなく近い言葉を毎日のように身体を張って教えていただいた人がいました。しかし私は当時その意図とは違った受け取り方をしてしまいました。結果として関係を断ち、逃げるともいえる行為を選択してしました。
いわゆる「未熟さ」という言葉がピッタリかもしれません。最終的には時間が経過するとともに自分のその選択は全くの間違いであったことに気づいたのは言うまでもありません。そして今、そういった言葉を毎日言ってもらえる存在がいない立場に身を置く者として「信念を貫く」ことを全身に刻み込んでくれたのは、その恩師であることは間違いないということも再認識しました。
私はこのエピソードから「未熟さ」の後悔というよりも違ったことを強く感じています。それは進化した自分、少しでも「コントロールできなかったことがコントロールできるようになった」と感じられたことが大きな財産であるということです。もちろんそのときに気づくことのできる「人間性」や「読み取る能力」があればよかったのでしょうが、その当時の自分にはそこは「コントロールできなかった」領域だったのだと今は感じています。だからこそ、私自身はそのことは決して否定すべきことではないのかなと解釈しています。
そして、皆さんもこの本を読んで自分自身をちょっと振り返ってみませんか? 何かいい自分自身への気づきがもらえる一冊だと思います。
(鳥居 義史)
出版元:新潮社
(掲載日:2013-10-17)
タグ:野球
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:信念を貫く
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:信念を貫く
e-hon