力士100年の診断書(カルテ)
林 盈六
日本の国技、相撲。日本の少年は必ずと言ってよいほど遊びや競技で相撲を経験している。大相撲の人気は多少の波はあっても、決して衰えるものではない。しかし、他の競技に比べ、包帯姿の故障者が目立ったり、力士生命も、また人生そのものも短かったりする。そして、それを「そりゃあそうだろう」と思い込んでしまう。だが明治時代、力士は一般人よりはるかに丈夫で長寿だった。
相撲ドクターとしてあまりにも著名な著者が一般の人によくわかり、しかもどんどん引きつけられるような文章で書き記した本書は、そのままスポーツ医学入門の書ともなっている。力士たちへの警鐘であり、力士の健康から真の健康を考える内容は、したがって日本人すべてに通じるものといえよう。とにかく面白く、またよくわかる。極めて医学的、科学的記述であるのに、学問的困難を感じることなく読み進める。相撲は関係ないと簡単に決めつけず、ぜひ手に取ってみていただきたい。
胸を患い5年間の養生経験を持つ著者の文章からは相撲や力士への愛情のみならず、深い人間への愛情が自ずと読み取れることも記しておきたい。
そもそもスポーツ医学あるいは科学とはあくまで人間を対象とするものであるから、必ず人間への愛情や人生への洞察が根底になくてはならない。単に勝利や記録のためのものであるべきではない。だからこそ、スポーツ医科学は人間性のすべてに関わってくるのだといえないだろうか。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:1984-05-10)
タグ:相撲
カテゴリ スポーツ医科学
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