人口の心理学へ 少子高齢社会の命と心
柏木 惠子 高橋 惠子
少子は、確かに問題ではあるが、実はそれは解決方法でもあった、というのが本書を読んでの率直な感想である。 問題として提示されているものが、なにかしらの結果であるというのはよくあることで、少子化に限らず何かの課題、問題を理解するのに有用な視点であると言える。
医療をはじめとした科学技術の進歩は、不慮の死を人類から遠ざけ、生活の糧を得る、子どもを育て上げるといった、旧来の価値からの解放をもたらした。現代的に言えば、自分らしく生きる、という時代になった。とくに、女性においての変化は大きく、かつてない価値観の変化がもたらされている。
子どもを産むということが、授かるものではなく、選択するものになり、ある種のリスクとして捉えられるようになった。現代社会の課題とされていることの多くが、そこに至る背景やそこからもたらされる人々の心理を抜きには考えられないことが示されている。人類史上、だれも経験したことのないこの少子高齢化という事態に、しかもそれが、かつてあったどのような変化よりも短期間に起こっているということに、どのように適応していくかの答えは誰も持ち合わせていないのが現実である。ならば、まずは本書のように、目の前の世界の実際をつぶさに観察し理解することから始めなければならないと思う。
本書の内容を、受け入れがたい人も大勢いるであろうが、少子高齢化を問題として捉えそれを解消しようとするのは、臭いものに蓋をするだけであろう。抗いがたいこの大きな流れの中で生きていくためには、これまでにない柔軟な思考や行動が求められる。それは、自分自身で考えていかなければならない、困難な時代であると言えるが、自分に見合った世界が見つけられるかもしれない機会に恵まれた時代でもある。
意外と、生きやすい時代かもしれない。
(永田 将行)
出版元:ちとせプレス
(掲載日:2018-09-03)
タグ:少子化 少子高齢社会
カテゴリ その他
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