競技力アップのフィジカルリテラシー キッズ・ユース期における動き&身体づくりの理論と実践
小林 敬和 森 健一
かつてはプレイヤーとして高い能力を有した者や競技成績が優秀だったものが指導者となり、彼らが持つ経験やノウハウを選手に与えるという指導者像が当たり前でしたが、近年の傾向としてはプレイヤーとしてのスキルと指導者としてのスキルを別のものとして捉える傾向が強くなりつつあります。もちろん実際に経験したスキル自体は否定されるべきものではありませんが、それ自体普遍性があるともいえず、チームや個々の選手に等しく当てはまるものではありません。とりわけ少年少女期は身体的・精神的に成長途上であり、彼らの成長を促進するという役割がスポーツに求められます。
本書はただ「勝つ」ということをスポーツというものの中心的な要素として据えるのではなく、人が人として健康に過ごし、スポーツという身体活動を通じて心理的・社会的に豊かになるための指導法が「フィジカルリテラシー」であると受け止めました。本書での「フィジカル」は、あくまでも身体活動という手段として捉えています。そして目的は、身体を、心を、考え方を、社会性を育むための取り組みであるとします。この考え方を強く意識してこそ、各論としてのエクササイズが生きてくるものだと感じました。おそらく理念ともいうべきここの部分が欠落すれば、現場で少年少女を指導する際に難しい選択を迫られたとき、大切な判断基準を失いそうな気がします。
正直に申し上げて、読み始めでは後半に掲載された具体的なエクササイズにのみ興味を持ちましたが、読むにつれてそれでは筆者の意図することが伝わらないと感じ始めました。こういった理念にのっとり、新しい時代のコーチングは身体能力や競技能力をアップすることが一番の目的とするのではなく、あくまでも「子供たちの成長」の一手段としての位置づけであることがはっきりと伝わります。「技術を教えてやる」というのではなく「子供たちの成長や時代の変化に対応するコーチング」という一文が本書全般に通じる考え方なのだと思います。
もちろんQRコードを利用して動画でエクササイズを見せる手法は今風で理解しやすいです。バランス、リズム、タイミング、フレキシビリティ、スタビリティ、モビリティという6つの要素を鍛える数多くのエクササイズは、鍛える目的がしっかり理解できるので納得したトレーニングで効果に直結しそうな印象が残ります。何となくやるトレーニングとは差が出るように思います。
少子化が問題となる昨今、健全なる青少年の育成には、スポーツを楽しんでみんなでやれる環境が不可欠な要素だと思います。そしてそれが一部の子どもだけではなく、多くの子どもたちにスポーツを楽しむ文化として広がることを願うばかりです。
(辻田 浩志)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2023-05-10)
タグ:フィジカルリテラシー
カテゴリ トレーニング
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