仮面の家
横川 和夫
実際にあった事件のルポルタージュ。事件の詳細については書くのを避けたい。読んでいる途中、ほんとうに胸が苦しくなった。事件の経緯をなぞっていくと、まるで八方塞がり、残る道は最悪の選択しかない、という心境になる。加害者は、ひとに尊敬されるような人格者で、誠実なひとだ。被害者の息子は、まるで最後の結末を招き入れるかのようにもみえる。あくまで、そう描かれているだけで、ほんとうのところは分からない。しかし、このルポが現実感をもって眼前に迫ってくるのは、間違いない。ひとごとではすまない、という気がする。
無意識下で抑圧された感情が、もっとも身近で大切なひとに、思いもしない形で反射する。誰も自分はそうならない、なってはいない、とはっきり言明することができない。そう言えるとしたら、逆説的ではあるけれど、この病理の前兆ともいえるからだ。自分の中に潜む、固定観念からの脱却以前に、思考の枠組みという前提に、自身が気づくことの難しさを感じた。
(塩﨑 由規)
出版元:共同通信社
(掲載日:2022-09-01)
タグ:家族 ルポルタージュ
カテゴリ その他
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