甲子園という病
氏原 英明
100年を迎えた全国高校野球大会。
毎年夏の風物詩である「全国高校野球選手権大会」は、おらが町の地元のチームを応援しようと町中が湧き上がる大会です。アマチュアスポーツで、ここまで盛り上がるスポーツ大会も高校野球のみではないでしょうか。ましてや、主役は18歳の高校生。毎年甲子園を沸かして、その年のドラフトが盛り上がりますね。
さて、この書籍は「甲子園」という最高の舞台を目指している高校生やそれを支える指導者、また、小学生・中学生と遡り、指導環境への問題提起をしていきます。取材を基にリアルにメスを入れています。私も高校野球経験者の端くれであり、高校野球のサポートをしてきた経験もありますが、大変共感できる逸話が多いです。
著者が疑問を呈しているのは、これまで高校野球の指導者は怒鳴ることで選手を動かしてきたこと。その産物で、自らの頭で考えることができなくなる選手。絶対的エースと言われ、連投につぐ連投で自らの肩肘がボロボロになるまで壊して勝利へと導く選手。そして甲子園大会では連戦が続く過酷な日程と異常な暑さの中で行われる試合という深刻さを挙げています。
書かれている表現で面白いのは、外国人から見た甲子園の試合日程と試合環境は「虐待」であると感じるということです。我々は普通に感じていることが客観的に見たら異常に感じられる。これも甲子園という魅力に取りつかれた日本人の病と言わざるを得ないのかもしれません。
また、毎年の大会でマスメディアの報道の過熱によってヒーローが出現することにより、その子の人生が狂ってしまう危惧も懸念しています。本人が意識していなくも、周りの過熱により意識してしまうのが人間の心情ではないでしょうか。現実と周りの世界のギャップに、自らの自分を見失ってしまう。ましてや高校生には酷な話です。
これまでの高校野球の指導法は、怒鳴ることや暴力などのパワハラなどについて見直しが図られています。これは、今後の指導法に変革や改善がなされていくと思います。もちろん、怒鳴りやパワハラはあってはいけません。高校野球の指導者も一人の人間であり家庭があります。お子さんもいる指導者も必ずいます。土日の大切な時間を使い、選手へ指導にあたることは家族との時間を減らします。それを辛抱している奥さんやお子さんがいるということです。その事実も踏まえて、少しでも甲子園という最高の舞台が、よりよいモノになることを願っています。
必ず光があれば影があるもの。今回の書籍はその陰に切り込んだ書籍です。「野球」が好きな人や野球に関わる全ての人に目を通して欲しいと願う一冊です。
(中地 圭太)
出版元:新潮社
(掲載日:2019-01-15)
タグ:野球
カテゴリ 指導
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