睡眠障害
渡辺 俊男
トレーニング指導において、身体づくりを効果的なものにするためにスポーツライフマネジメントの重要性が言われる。これは、「トレーニング‐栄養‐休養」の3要素について、質の高い取り組みを構築するということである。トレーニングや栄養に関しては、かなり詳細な検討がなされるが、休養に関しては、前者2つと比較すると検討される割合が少ないように感じる。本書のテーマは睡眠障害であるが、適切な睡眠を実現するために大変参考になるだろう。とくに、本書がシンプルな論理的構成になっているため大変わかりやすい。
まず、現代社会と睡眠との関係から現代人が睡眠障害に陥りやすい環境であることがわかる。現代人の生活スタイルの変化によって、寝起きの習慣が多様化してきたことが要因の1つのようだ。その具体例として、夜型の活動である交代勤務や残業などが挙げられている。
次に、睡眠の基本について説明がされている。睡眠とは、生理機能に支えられた適応行動であり、生体防御技術である。そして、睡眠の役割とは、大脳をつくり、育て、守り、修復し、よりよく活動させることである。また、よい睡眠の基準や、個人差、時刻差、年齢差、男女差、文化差についての説明がされている。
3番目に、睡眠障害の説明がされている。前章で睡眠の基本が記述されているため、基準と障害の間に存在するギャップを確認できる。睡眠障害は大きく(1)睡眠異常、(2)睡眠時随伴症、(3)内科・精神科的障害に伴う睡眠障害、(4)提案検討中の睡眠障害の4つに大別される。
4番目に睡眠障害の原因である。睡眠障害の原因として、(1)体内に存在する問題、(2)体外に存在する問題、(3)生活リズムの問題、(4)睡眠自体に存在する問題、(5)他の病気と関連する問題、(6)その他の6つに大別される。
5番目にこれまでの内容を振り返ったクイズ形式の睡眠知能指数が紹介されている。睡眠に関する正しい知識と方法論について全100問を○、×で答えるものだ。これは、単なる読後の確認だけでなく、学生アスリートや学生トレーナーへの教育にも役立つだろう。
スポーツライフや日々の生活において睡眠は、その重要性は認識されつつも実際には軽視されがちな部分であるように感じる。強化練習期間では、練習の側面に注意が向かうものの、その回復を促す睡眠に対してのアプローチが少ないのではないだろうか。また、ビジネスマンも業務が多忙になると睡眠時間が削られがちである。睡眠は、単なる身体づくりの促進だけでなく、日々の作業効率や充実した生活にも影響することから、スポーツにおいては技術練習の効果的習得にも影響することが予想できる。本書は、スポーツライフにおける睡眠の領域について理解を深めるために大変有効なものであり、手元に置いておきたい一冊である。
(南川 哲人)
出版元:講談社
(掲載日:2012-02-07)
タグ:トレーニング 睡眠 休養
カテゴリ トレーニング
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人はどうして疲れるのか
渡辺 俊男
「若いころと違って年を取ると疲れる」なんて言葉を耳にします。私だって何度となくそんなことを言ったことがあります。若いころのほうが運動量も多いのに、どうして年を取ったほうが疲れるのか? 若いころとは違い、責任の重い立場にあるから疲れるのか? そうなると疲れは身体の問題ではないのか? 日曜日にゆっくり休んだのにどうして月曜日の朝は疲れているのか?──「疲れ」というものを改めて考えてみると不思議なことがたくさんあります。「疲れ」とはいったい何なのか? 本書は日常当たり前に起きる現象をさまざまな角度から分析しています。
「疲れ」にはマイナスのイメージがあります。誰だって疲れるのは嫌だし、疲れ知らずで動けたら素晴らしいかもしれません。しかし疲れなければ休息をとることもないでしょう。そこに待っているのは「破たん」であることは容易に想像がつきます。その流れにブレーキをかけるために「疲れ」が存在するのであればそこに積極的な価値を見出すことができると筆者は説きます。動くことこそが動物のアイデンティティであり、動くことにより食物を獲得し、エネルギーを得て活動ができるのですが、「動く」「疲れる」「休む」という要素こそが生命活動のシステムであり、これらの要素のバランスが効率をもたらすということを知らされました。
現代社会における我々を取り巻く環境は大きく変化し、疲労というものの質も、筋肉を中心としたものから感覚器官の疲労や精神的な疲労などに変わりつつあり、ますます「疲労」というものの正体がつかみづらくなってきたとあります。時代の推移により「疲労」も変化するというのは興味深いところです。
こんな引用があります。「C・ベルナールは『生きていること』を定義して、『下界の環境の変化に対して、生体の内部環境の生理的平衡状態(ホメオスタシス)を保つ努力である』と言いました」。動くものが動物であるかと言えばそうではありません。機械は動きますが自ら下界の環境変化に対して恒常性を持ちません。これこそが動物と無生物との分水嶺。ここで筆者は、安定した変化のない環境に馴らされて生体の内部環境を変化する力を失うことは、生物としての活力を失うことと言い切り、そのことが「死」に向かうことであると指摘します。安定した楽な生活を求めようとする私たちに対して警鐘を鳴らすと同時に、活力に満ち溢れた生活を営むためのヒントを与えてくれているように思えるのです。
最後の疲労回復法の章も必見です。疲労を軽く見て病的な状態に陥ることもありがちです。よりよく生きることは上手に「疲れる」ことである。そういった発想で日々を暮らしてみると、自分の心や身体との新しいつきあい方が見つかるような気がするのです。
(辻田 浩志)
出版元:筑摩書房
(掲載日:2012-02-07)
タグ:生化学 疲労
カテゴリ 生命科学
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