投球障害からの復帰と再受傷予防のために
牛島 詳力
まず始めに、本書の対象は野球に関わるトレーナーやセラピスト、指導者、学生、そしてその保護者となる。学生については自分自身でも読めることがよいが、どうしても難しい言葉、専門用語も並ぶので高校生や大学生以上の方が対象となりそうだ。
しかし、内容に関しては小学生年代からも知っておいて欲しい内容で、そのためには保護者や指導者には必読であると考えられる。もちろんそこに関わるトレーナー、セラピストも読んで欲しいが、自分が知る限り若年層のチームに帯同するトレーナーは少なく、ケガをしてしまった後に関わることが多いセラピストよりも、未然に防げる立場の方々が率先して読むことをお勧めする。
本書の「はじめに」でも書かれているが、チームにトレーナーがいても全選手のケアを全て行うことは難しく、病院や接骨院との連携が不可欠となる。それには、野球に関わるトレーナーと、スポーツの専門職とは言えないその他のセラピストとの知識のギャップを埋めることが必要となる。さらに、選手、選手に近しい存在の保護者、練習と試合の参加へ強い権限を持ってしまっている指導者らが、本書の情報を理解し実践できることが投球障害を減らすために必要であり、著者が筆をとった理由だと感じた。
筆者は11年間にも及ぶ野球チームでのアスレティックトレーナー経験で、地域の各種セラピストに「お任せできる方が非常に少ない」と感じている。
本書を読んだ私も、正直任せてもらえる立場にないことを感じてしまった。
「一球投げることによる肩、肘への負荷」「外傷・障害発生時の保存療法か手術を選択する時の判断材料」「投球できない選手のリハビリと関わり方」「ブラックバーン6」「Proprioceptive Neuromuscular Facilitation」「投球制限」など、本書に載っている言葉や説明、単語までわからないものが散見され、筆者との共通言語が少なくなってしまっていると気付かされた。もちろん、それを埋めるための本書であり、学習の始まりの機会を得ることができる。
ここでは専門用語の話をしてしまったが、選手が読んで実際のエクササイズができるように解説付きの写真も付いている。
選手、保護者が読むのであれば、「7.『野球人生』に悔いを残さないために」から読むことをおすすめする。この本の意義が分かる。
コラムにはトレーナーとしての失敗談などもあり、最初から最後まで一冊まるまる読み漏らすことなく、度重ねて読み込みたい内容となっている。
野球人口は多く、私の勤める鍼灸院にも草野球をする患者様は何人も来院する。そんな方へのアドバイスに本書から頂いた情報をすぐにアウトプットできる内容となっており、投球障害の入門書として多くのセラピストに役立つ内容になっている。また、先に選手や保護者が本書を手に取った時に、トレーナー、セラピストが本書の内容を知らないと信頼の損失は免れることはできない。
ぜひ、多くの野球関係者、医療関係者の手元に本書が届き、より選手を大切にする野球界になっていくことを期待したい。
(橋本 紘希)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2021-02-26)
タグ:野球 投球
カテゴリ スポーツ医科学
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投球障害からの復帰と再受傷予防のために
牛島 詳力
MLBのトレーナーから中学硬式野球チームのコンディショニングコーチ兼アスレティックトレーナーまで務めたATCおよび柔道整復師の著者が、投球障害に限定し、受傷後にどのように復帰させていくか、また再受傷しないためにどのようなことが必要なのかを詳しく解説してある一冊。
鍼灸の臨床ではちょくちょく学生の投球障害をみることがあります。著者が述べているように、チーム所属のトレーナーなどではなく地域の治療家に多くが委ねられていますが、専門の教育がなされていない分、任せられるところがないとのことで、我々臨床家もこのくらいの知識は持ち合わせておくべきかと感じました。
治療法については医学書などに詳しく解説がありますが、復帰するまで各段階での評価や訓練方法、さらには再受傷予防という重要なポイントまでをとくに詳しく書かれているものはなかなか目にすることがありませんでした。地域医療を支えたいと考えている方に、こちらの本をお勧めします。
エクササイズの種類が豊富で、現場に密着した内容なので、さっそく実践していきたいと思いました。
(山口 玲奈)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2022-03-17)
タグ:投球 野球 予防
カテゴリ スポーツ医科学
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