ドライチ ドラフト1位の肖像
田崎 健太
日本プロ野球新人選択会議、通称ドラフト会議。毎年ドラフト会議で指名された若者たちだけがプロ野球の門をくぐることができます。選手たちにとって野球をやる上で憧れのプロの世界に入るために指名を待つ儀式でもあり、球団にとっては有望な新人を獲得し、より強いチーム編成をするうえでもっとも重要な行事でもあります。
毎年数十人の選手が指名される中、ドラフト1位は12人だけ。当然それぞれの球団においてもっとも期待がかかり、注目を受けます。
ドライチ(ドラフト1位)で指名された選手の中で期待通りの活躍をする選手もいれば、期待外れに終わり寂しく球界を去る選手もいます。その中の8人の選手にスポットを当て、決して報道されることのなかった真実を取材したノンフィクション。
実力不足・不運・タイミングの悪さ・人との出会い・転機。ここの登場する選手の運命みたいな要素は意外なほど一般社会のそれと変わりありません。プロ野球に入る人なんて特別な人であるという認識は読んだ後も変わりませんが。
ただ私たちと大きく違うのは、眩いほどの輝きを放っていることで、これがドライチの背負うものだと確信しました。多くの人が集まってきて、いろんなことを言われ、特別な経験をしています。それなのにテングになるでもなく、冷めた目で周りを見ていたり、狼狽したり、振り回されたり。あまり楽しそうな印象はなさそうです。引退してから取材されたから冷静に振り返っているというのもあるでしょうが、人間、急に持ち上げられるとかえって警戒心を抱いてしまうのかもしれません。
好きな球団を言ったら逆指名と書かれ、ありもしないトレード話をさも真実のように書かれたり、本人にしたら人間不信になってしまうのも無理のないところ。ケガで思うように練習ができずあったはずの伸びしろも削られてしまうのは残酷としかいいようがありません。それでも生きていかないといけないわけですからいつまでも下を向いているわけにはいきません。当時誰にも言えなかった本音もあらためて聞くと身につまされ、印象が少し変わりました。
長距離打者として期待された元木選手(元巨人)も生き延びるために「くせ者」の道を選んだり、登場する8人が王道をまっすぐ歩んでいったわけではないところに、この本の見どころがあるように感じました。
エールとも感じられる筆者の文章は、同時につまづきながらも頑張って生きている私たち読者へのエールだと受け止めました。
(辻田 浩志)
出版元:カンゼン
(掲載日:2018-06-16)
タグ:プロ野球 ドラフト
カテゴリ スポーツライティング
CiNii Booksで検索:ドライチ ドラフト1位の肖像
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:ドライチ ドラフト1位の肖像
e-hon