名文どろぼう
竹内 政明
小説、俗謡、俳句や川柳、詩や落語などから、至言、金言、名言を集めた。いや、盗んできた。ここでは、孫引きならぬ孫盗みをする。
「上司から〈働くとはハタ(周囲)をラクにさせることなんだぞ〉と陳腐な言い回しで説教をされたとき、ただうつむくのもいいけれど、それなら『ジダラク』(自堕落)の方が、自他ともに楽になるから、一層よいのではないか。」
田中美知太郎
うまい。だけど、きっと火に油だ。
「『痛い』
すきになる ということは
心を ちぎってあげるのか
だから
こんなに痛いのか」
工藤直子
これだけ短く的確に、恋するひとの心情を表したものはないのではないかと思った。
並はずれた洞察力を持つ猫、かと思いきや、次のは吾輩の言葉。いずれにしても、さすが漱石。
「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする。」
夏目漱石『吾輩は猫である』
次のような人生訓もある。
「才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべてを引っくるめたところで、ただ可愛気があるという奴には叶わない。」
谷沢永一『人間通』
ミもフタもない。が、真実味がある。
「夢は砕けて夢と知り
愛は破れて愛と知り
時は流れて時と知り
友は別れて友と知り」
阿久悠
あたりまえの日常に流されずに、有り難みを感じることのむつかしさをおもう。
「琴になり下駄になるのも桐の運」
江戸川柳
気の利いた言葉には、ユーモアによって現実をいなすようなものが数多い。ある哲学者によれば、ユーモアとは「理性の微笑」のことだという。これもまた、忘れがたい名言だ。
(塩﨑 由規)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2022-10-27)
タグ:人生
カテゴリ その他
CiNii Booksで検索:名文どろぼう
紀伊國屋書店ウェブストアで検索:名文どろぼう
e-hon