透かしてみるとみるみるわかる‼︎ 解剖学
金子 仁久
解剖学と題してあるものの、内容は派生&脱線し、生理学、病理学、果ては公衆衛生学の範囲までも及ぶ。これだ! と思う。知識は、別々の引き出しに仕舞い込み、一問一答式の雑学のように出し入れするものではない。こと試験においては、そうせざるを得ない面があるとしても、本来知識は、まるで生き物のように、ダイナミックで有機的なものだ、という気がする。でなければ、臨床応用できないばかりか、なにより、楽しくない。べき論などは後づけだと思う。楽しいから学ぶ。義務感は後から湧いてくる。それを初学者に押しつけても、きっと、堅く殻を閉ざすばかりだ。
本書は専門書ではあるが(看護師を目指す学生さん向けの雑誌連載に加筆修正したもの)、なにより解剖学を身近に感じてほしい、苦手に思わず覚えてほしい、という著者の一貫した気持ちを感じる。そのためなら滑稽な覚え方も、躊躇なく披露してくれる。イラストも豊富で、めくっているだけで楽しい。
辞典的に用いる定番の専門書は数多い。大枠を捉えるための入門書や一般書にも優れた本がたくさんある。しかし、本書のように科目横断的な一筆書きをしてくれるものには、なかなか出会えない。想像ではあるが、スペシャリストの先生は、その筋は詳しくても、隣の畑のことはあまり知らない、あるいは、アカデミックな世界では、その分野だけは超絶的に詳しい、ということでないと評価されないのかもしれない。その世界では、なんとなく全体像を俯瞰できる、点と点のつながりを見いだし、他者に伝えられる、という能力は求められていないのかもしれない。
だからこそ本書のようなものは少なく、貴重だ。本書は、学ぶことの楽しさと、伝える相手に対する親切心からできている。それらこそ、初学者がエンパワメントされる条件だと思う。
(塩﨑 由規)
出版元:学研メディカル秀潤社
(掲載日:2023-06-22)
タグ:解剖学
カテゴリ 医学
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