「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー
高橋 秀実
言わずと知れた、超進学校開成高校の野球部の話である、これが面白い、実に面白い!
監督である青木がバッティングについてこう話す。
「打撃で大切なのは球に合わせないことです。球に合わせようとするとスイングが弱く小さくなってしまうんです。タイミングが合うかもしれないし、合わないかもしれない。でも合うことを前提に思い切り振る。空振りになってもいいから思い切り振るんです。ピッチャーが球を持っているうちに振ると早すぎる。キャッチャーに球が届くと遅すぎる。その間のどこかのタイミングで絶対合う。合うタイミングは絶対あるんです」
著者の高橋は、この言葉から正岡子規の語る野球の原型「打者は『なるべく強き球を打つを目的とすべし』」、を思い起こす。
青木監督はこんなことも話す。「野球には教育的意義はない、と僕は思っているんです。野球はやってもやらなくてもいいこと。はっきり言えばムダなんです。これだけ多くの人に支えられているわけですから、ただのムダじゃない。偉大なるムダなんです。とかく今の学校教育はムダをさせないで、役に立つことだけをやらせようとする。野球も役に立つということにしたいんですね。でも果たして、何が子供たちの役に立つなんて我々にもわからないじゃないですか。社会人になればムダなことなんてできません。今こそムダなことがいっぱいできるんです」
「ムダだからこそ思い切り勝ち負けにこだわれるんです。ジャンケンと同じです。勝ったからエラいわけじゃないし負けたからダメなんかじゃない。だからこそ思い切り勝負ができる。とにかく勝ちに行こうぜ!と。負けたら負けたでしょうがないんです。もともとムダなんですから。ジャンケンに教育的意義があるなら、勝ちにこだわるとなんか下品とかいわれたりするんですが、ゲームだと割り切ればこだわっても罪はないと思います」
これを受けて高橋がこう語る。「確かにそうである。そもそもお互いが勝とうとしなければゲームにもならない。『信頼』や『思いやり』などは日常生活で学べばよいわけで、なにもわざわざ野球をすることもない。野球は勝負。勝負のための野球なのである」
「偉大なるムダに挑む開成高校野球部。すべてがムダだから思い切りバットを振る。どのみちムダだから遠慮はいらないのである」
野球に正解はない、人生に正解はない。
「たかが野球、されど野球!」「たかが人生、されど人生!」
(森下 茂)
出版元:新潮社
(掲載日:2014-08-20)
タグ:野球 指導 高校生
カテゴリ 指導
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