競技力向上のトレーニング戦略
Tudor O. Bompa 尾縣 貢 青山 清英
ピリオダイゼーションの重要性
本書は、比較的珍しい単独の著者による包括的なトレーニングの理論書だ。
今回の翻訳が日本国内では初版本となるが、原著ではすでに第4版まで重ねられているだけあって、近年の基礎的研究成果などもふんだんに盛り込まれ、整然としてしかもよく練られた内容となっている。読み進むにつれ、学生に戻って教科書を読んでいるような気分になり、目先の仕事に追われてばかりで木を見て森を見ない思考に陥っている昨今の自分を反省したりした。
ピリオダイゼーション(期分け)理論という本書の主題をトレーニングの科学的基礎と実施方法という両輪が支える形で、大きく3部から構成され「競技力向上のトレーニング戦略」がダイナミックに展開されている。
週単位(ミクロサイクル)から数週間単位(マクロサイクル)、さらには年単位あるいはもっと長期にわたるピリオダイゼーション、そしてそれが鍛練期であるのか試合期であるのか、それぞれ密接な関係を持たせ熟考したうえでピリオダイゼーションを行うことの重要性が、いくつもの具体的パターンとともに示されているのである。
戦略と戦術
本書を読むための核となるであろう「戦略(strategy)」という語と、それに似た「戦術(tactics)」という語について述べる。両用語ともほぼ同様のことを意味するが、戦略(strategy)は「シーズン全体、あるいはより長期にわたって、選手やチームのプランを構築、遂行する技術」であり、対する戦術(tactics)は「1つのゲームや試合のみを対象にしたプランに関する」比較的短期のものであるところで両者わずかに異なっている。また、戦術の「価値と重要性」は「相手との攻防の中でのスキルの完成」が必要な競技では比較的高く、「調整力とフォームの完成」が重要な競技では比較的低い。このことから、戦術は競技の成功において重要な要素ではあるが、大局的なトレーニング計画の構成要素の1つとして考えるのがよさそうである。
この「戦略」という語が意味するところと、トレーニング計画におけるピリオダイゼーションの重要性との関連を考えると、原題「PERIODIZATION Theory and Methodology of Training(ピリオダイゼーションの理論と実際)」を副題にしてまでも、翻訳版である本書の本題を「競技力向上のトレーニング戦略」とした訳者の戦略的意図とその意義がわかるような気がするのである。
一気に読み通す
さて、本書は「監訳者あとがき」にもあるように、トップアスリートやコーチだけでなく広く一般のアスリート、コーチにも「即利用できる合理的・効率的なトレーニングに関する示唆」が盛りだくさんに含まれている。辞典のように興味のある部分だけ開いてつまみ読みしても十分使用に耐えると思われるが、いっそのこと全項目を読み通してしまったらどうだろう。
輪読形式でじっくり読み込んでもよいし、一人孤独に蛍の光で読んでもよい。
一人で読む場合には、難解な部分があってもいちいち立ち止まって調べごとの迷宮に入ったりする前に、一気に読み通してしまうのがよい。そのほうが、きっと本書が伝えようとしているトレーニングの体系的内容が脳内に残るだろう。そして、それぞれのアスリート、コーチの頭脳の中で熟成し日本の伝統的な鍛練の理論とともにじっくりと練った戦略的トレーニング理論ができあがれば、これまで以上に多くのアスリートが世界に羽ばたくことになるだろう。
などと言ったら出しゃばりすぎだろうか。
テューダー=ボンパ 著、尾縣 貢・青山清英 監訳
(板井 美浩)
出版元:大修館書店
(掲載日:2007-06-10)
タグ:ピリオダイゼーション トレーニング
カテゴリ トレーニング
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