サバイバルマインド
Megan Hine 田畑 あや子
筆者のミーガン・ハインは女性サバイバー。正直私の興味から言うとサバイバーという職業はかなり縁遠く、あまり関心がありませんでした。逆に自ら好んで生死の淵に向かう人が何を考えているのか、少し興味があるくらいでこの本に出合いました。
サバイバルには屈強な肉体よりも精神力の方が重要だと言い切ります。そして本書はサバイバルに必要な精神を筆者の経験談とともに書かれていますので、とても説得力があります。
まったく関心も知識もない世界のお話だけに新鮮に感じずにはいられません。避妊具のコンドームを手袋として使ったり、止血帯や投石器としての使い道や、可燃性の高さから濡れた場所で火を起こすのに使うなど、普通ではできない発想には舌を巻きました。
16の項目に分けてサバイバルというものを解説していますが、これら一つ一つの要素は私にとって縁遠いものではありませんでした。むしろ彼女が必要とするサバイバルマインドは、普通の社会で暮らす我々の社会生活や仕事において必要な要素とまったく変わらないものだと確信しました。ただサバイバルの性格上、失敗が命の危機に直面するから印象深く感じるのだと思いますが、ここで書かれたサバイバルに必要な多くの要素はそっくりそのまますべての人に当てはまるものでした。
私がもっとも共感したのは、「直観」というものが多くの経験の蓄積が無意識のうちに下した判断であるとされ、経験の重要性を認めたうえで、過去の経験だけに頼っていると経験則の罠にはまるとも言われます。筆者の経験との距離感、そして経験にとらわれない自由な発想、これらのバランスがすごくいい方だと感じました。それが生き残る秘訣なのかもしれません。
命に関わる危機に直面すれば人はパニックに陥ります。しかし命がかかっているからこそ冷静に決断しなければなりません。そういう局面で決断の手順を持っておられるところには恐れ入りました。しかも7段階にわけてより正しい判断をするという、冷静さと恐怖をコントロールする力に筆者の凄みを感じてしまいます。
アクション映画さながらのお話に驚嘆しながら読んでいるうちに、私たちの生活にも必要なエッセンスに気づかされていきます。それが実践できれば危機対処に強くなれそうな気がします。ハラハラドキドキしながら読んで人生訓が得られる本って珍しいです。
(辻田 浩志)
出版元:エイアンドエフ
(掲載日:2019-07-27)
タグ:サバイバル
カテゴリ 人生
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トレイルズ 「道」と歩くことの哲学
ロバート ムーア Robert Moor 影山 徹 岩崎 晋也
私の生まれた町は道路が東西南北に規則正しく伸びていて、碁盤の目のようになっている。北に行けば標高が高くなり、南に行くほど海に近くなるので、北に行くことを「上に行く」、南に行くことを「下へ行く」と言い、道案内はそれで通じた。鉄道も3路線あったが全て東西に長く伸びるだけであった。
高校卒業とともに上京した私は、縦横無尽に走り枝分かれする道路や地下鉄に戸惑いを隠せなかった。
本書の道案内役はロバート・ムーア。ミドルベリー大学の特別研究員である。彼はアパラチアン・トレイル(アメリカ東北部を2,600kmにわたって連なる山脈)の全区間スルーハイクから、 ある疑問を持った。「道はどのようにしてできたのか」「なぜこの場所にできたのか」。その答えを求め、整備された都市はもちろん、原住民族のみが知るような地図にない道、目に見える道だけでなくアリの行列から古代生物の化石まで世界各地を探索した。
やがて彼は、一つの答えにたどり着く。
”道=トレイルには物語がある”。動物が生存のために天敵を避け、食料のある場所までの安全な道を作った。人類はすでにある道をできるだけ早く移動するために、また情報を伝えるためにテクノロジーを発達させた。人類の、そして地球に住む生物の太古からの営みと歴史がトレイルには刻まれていた。
我々がなぜ今ここにいるのか、どうやってこの場所にたどり着いたのか。本書は幾重にも積み重ねられたトレイルの“これまで”の物語を知るとともに、我々が“これから”をどう生きるかを考える哲学書でもある。
ロバート・ムーア氏とともにトレイルを辿る旅に出てみてはいかがだろうか。きっといい道案内役になってくれるはずである。
(川浪 洋平)
出版元:エイアンドエフ
(掲載日:2019-08-17)
タグ:道 トレイル
カテゴリ 人生
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