一生、山に登るための体づくり
石田 良恵
私には、スポーツや運動といえば若い人がやるものという思い込みが以前ありました。しかし自分が高齢者のくくりに入ってしまったら「若者の特権」という意識は薄れてきました。スポーツを楽しむのは各々の体力に応じてできるのであって、それぞれのスポーツもすそ野が広い方が盛り上がるわけですから好ましいといえます。ところがケガなどのリスクは極力避ける努力をしないと後々つらい思いをすることになりますので、正しい知識を持って楽しくやるべきだと思います。
私の周りにも山歩きが好きな人が多くいます。自然とともに体を動かすことの喜びや楽しみは愛好家にとってかけがえのないことのようです。ところが魅力であるはずの自然は時として脅威として襲い掛かることもあり、場合によっては命に関わるケースもあり、ニュースで報じられることも少なくないのが現実です。
本書の良さは筆者の経験と研究から登山のリスクと向き合いそのために必要な体作りをわかりやすく指導されているところにあります。「一生、山に登る」というタイトルの通り、体力に不安がある高齢者にもできるというのが中心的なテーマになるのですが、体づくりの必要性を理解するところから本書は始まり、体力の下地ともいうべき体の安定性を身につけるための柔軟な体づくりをすることへと続きます。我々にすれば一にも二にも筋力をつけてと考えがちですが、筋力の前提条件からスタートするあたりは研究者の面目躍如といったところでしょうか。
体力(筋力)づくりも、基本編と、登山の特性を説明したうえでの実用編と段階を踏んでいます。そこから登山に欠かせない持久力。さらには水分補給や筋肉をつくるための栄養素の話まで登山のすべてがこの一冊に網羅されているのではないかと思うほどでした。もちろんトップレベルの登山は別として、一般人が自分の楽しみとして行う登山としては十分な内容だと思います。
高齢者の割合が高くなりつつあるわが国でどうやって健康を維持し、長く健全な生活を送れるかが社会問題となっています。とはいえやみくもに運動をしても危険なこともあります。本書で紹介されているトレーニングなどの情報は山に登らなくてもやっておきたいことばかり。高齢になっても健やかに過ごしたい人にはお読みいただきたい本です。そこから逆に山に興味を持ってもいいんじゃないでしょうか。
(辻田 浩志)
出版元:マイナビ出版
(掲載日:2023-03-20)
タグ:登山
カテゴリ 運動実践
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