歴史をつくった人びとの健康法 生涯現役をつらぬく
宮本 義己
「いつまでも若さを保ち、健康的な生活を送りたい」という願いは、人間の持つ根源的な願望の1つであろう。私たちは、抗加齢、老化防止といった「アンチエイジング」に少なからず関心を持っている。そして、身のまわりに目を向けると、歴史的に培われてきた「伝統食(和食)」について、栄養面や生活習慣病の予防などに効果が確認されていることを知ることができる。このような、私たちの持つ思い(誘因)と、それに貢献できる環境(動因)が存在するにもかかわらず、現実にはうまくいかない側面が存在する。なぜなら、それぞれに事情や制約、情報過多による取捨選択の困難さなどが、複雑に入り組んでいるからであろう。
養生の格言に、「薬補は食補にしかず」、「衛生の道ありて長生の薬なし」という言葉がある。前者は、食に勝る薬はないということ、後者は、養生の道こそあれ、長生のための秘法など存在しないという意味に要約される。それでは、薬に頼らず、秘法なるものにも惑わされない養生の道とは、一体どのようなものなのだろうか。本書は、「養生の道」のありようを具体的に検証するために、生涯現役を貫いた各界各層の歴史上の人物たちの取り組みを検討し、健康や長生の真理に迫ろうとしている。
本書の構成は、「気分転換(趣味とレジャーでストレス解消)」「心気調和(気の温存で体力維持)」「節制(抑制の効いた生活で健康保持)」「一病息災(持病と共存して長生を得る)」「求道(探究心と情熱で老化防止)」「保健衛生(専門的養生知識を活かす)」という観点から、歴史上の人物38人の養生心得の実際を紹介している。そして、これらの観点から検討していくなかで、最終的には「健康の条件」という同じゴールに向かっていることを指摘している。それは、「バランスのよい食膳に加え、慰めの励行によるストレス解消や調気(呼吸)による気力の温存、さらには塩断や毒断による体調の維持にあった」ということである。さらに、現代の言葉に言い換えるなら、「活性酸素を除去し、ナトリウムを排泄して血液の循環を円滑にし、カロリー制限を行ってコンディションを整える」ということになり、現代の生活習慣病の予防対策と比べても遜色ないことを指摘しているのである。
このように検討していくと、本書の底流にある著者の思いを何となく感じることができる。それは、「健康の条件というゴールに到達するには、さまざまなルートが存在する」というメッセージなのではないだろうか。そして、「そのルートは個人の現実に応じて多様である」ということである。そして、「健康の条件」と「現状」との間に存在するギャップの実体を見極め、それを埋めるためのさまざまな引き出しの提案をしてくれていることを感じるのである。
われわれトレーニング指導者は、「科学的根拠」という側面から健康を考えることが多いが、本書のように、「文学的側面」からも大変有用な情報を得ることができることを学んだ。そのように考えると、人間の身体とは「全体的」かつ「総合的」なものであることを実感すると同時に、「文理融合」、あるいは「学際的」という観点を持つことの大切さも実感するのである。これは、さまざまな物事の見方や学問領域が存在するものの、対象とする人間の身体は1つであることを再認識させてくれるのである。
(南川 哲人)
出版元:中央労働災害防止協会
(掲載日:2012-10-14)
タグ:健康法
カテゴリ 身体
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