愛づるの話。
中村 桂子
『季刊 生命誌』をカードとWebで発行し、最後にまとめる。これはその2冊目。編集の中村さんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館(10年前に創設)の館長である。東京大学理学部化学科の出身で、生命科学が専門だが、生き物の歴史とでもいうかBiohistory(生命誌)という概念を打ち出し、言論活動も盛んに行っておられる。
さて、この号のテーマは2つ。「愛づる」と「時」である。前者は中村さんとの対談が4つ。哲学者の今道友信氏との「讃美と涙が創造の源泉」、生物学者で前JT生命誌研究館館長の岡田節人氏との「生物学のロマンとこころ」、美学・美術史が専門で京都大学大学院教授、同大学附属図書館館長の佐々木丞平氏との「生を写す視点」、生命基礎論(複雑系)の金子邦彦氏との「生命──多様化するという普遍性」である。
「時」のほうは、「時を刻むバクテリア」(岩崎秀雄)を始め9つの論文で構成されている。最後にScientist Libraryというタイトルで、本庶佑氏ほか4人の科学者の生い立ちや研究内容が興味深く紹介されている。
柔らかい知性というべきか、「蟲愛づる姫君」から「愛づる」をキーワードに選んだ中村さんの感性に気分よくひたれる。いつまでも読んでいたくなる。
(清家 輝文)
出版元:JT生命誌研究館 新曜社
(掲載日:2004-07-15)
タグ:対談 生物学 生命 時間
カテゴリ 生命科学
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スポーツ心理学入門
マット ジャーヴィス 工藤 和俊 平田 智秋
スポーツを自ら実践する著者が、スポーツ心理学の性格、態度、学習、動機づけ、攻撃性、ストレスなど、選手やコーチの立場から実践的に、わかりやすく解説した入門書。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:新曜社
(掲載日:2006-10-10)
タグ:スポーツ心理
カテゴリ メンタル
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はじめての沖縄
岸 政彦
若い頃、沖縄病(沖縄にハマること)に罹患したという著者は、沖縄を専門とする社会学者になる。そして、かつての自分のように沖縄を過度に理想化したり、イメージで語ることを諫める。
この本は沖縄の、歴史や風土、社会や観光スポットの、いわゆる解説本ではない。戦後沖縄を生きたひとたちの断片的な語りの集合になっている。著者の沖縄についての語りも、そこには含まれる。著者はいう。激戦の渦中にいたひとだけではなく、九州に疎開していたひとも、北部で無事に生活していたひとも、それぞれの沖縄戦の経験を持っている。そこを区別したくない、と。
印象的な場面がたくさんある。著者の言葉を借りれば、見たわけではないのに、目に焼き付いて離れないシーンがたくさんある。とてもリアルだからだと思う。語りの細部にリアリティがある。沖縄戦の凄惨さはあらためて、すごいものがある。筆舌に尽くせるものでは到底ない。しかし、そのなかにも間違いなく、ひとびとの生活があった。今を生きる我々と同じひとの営みがあった。語りからはそのことがわかる。沖縄戦はより身近になり、そしてその悲惨さはより、想像を絶するものになる。
もともと別の国だった沖縄は、日本になり、戦争では捨て石にされ、アメリカに占領される。日本復帰後も日本にある米軍基地のほとんどは沖縄にあり、基地に関連する事件もいまだ、後を絶たない。沖縄には、沖縄と、沖縄以外の日本を示す言葉がある。うちなーんちゅ、ないちゃー、がそれだ。そんな言葉があるのは、見えない壁があるからだ。そうなった歴史や社会構造の必然がある。はっきり差別といえるほどのものであれば、まだ易しいのかもしれない。
著者は、戦後本土に就職して、その後沖縄にUターンしたひとたちへの調査を通じて「他者化」という言葉で表現した。見えないからこそ、はっきりした分厚い壁の存在、今も北緯27度線はある。
好きだからこそ、その境界を簡単に乗り越えたくない、と著者はいう。断片的な語りのなかで、沖縄ってなんだろう。沖縄ってほんと、なんだろう。と、著者は考え続ける。
(塩﨑 由規)
出版元:新曜社
(掲載日:2023-07-21)
タグ:沖縄
カテゴリ その他
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