MBAが会社を滅ぼす
H・ミンツバーグ 池村 千秋
副題に「正しいマネジャーの育て方」とある。もちろん、これはビジネス界の話。スポーツ医科学の関係者にはあまり関係がない、とは思わない。その理由は2つある。
まず、ビジネス界でマネジメントを行うことは、スポーツ界やその他団体や組織のマネジメントを行うことと同じあるいは共通することが多いという点。
もうひとつは、本書では日本のビジネスのマネジメントの話がたくさん出てくる。日本のやり方のよさを知るのは、どの世界の人にも参考になるという点。
本書は2部立てで、Part 1は「MBAなんていらない」、Part 2は「マネジャーを育てる」。Part 1は、ビジネス界でもてはやされているMBA教育のあり方がいかに間違ったものかを筆鋒鋭く、痛快なまでに論じていく。「そうだ、そうだ」と思う人も少なくないだろう。それをアメリカ人が書いているのがまた面白い。Part 2は一転して、建設的になる。まさにマネジャーの育て方を述べていく。実際に行われているプログラムで、Part 1と比べ、痛快さはさほどない。しかし、じっくり読めばこちらのほうが奥深い。構成力見事な書である。(S)
H・ミンツバーグ著、池村千秋訳
2006年7月24日刊
(清家 輝文)
出版元:日経BP社
(掲載日:2012-10-11)
タグ:マネジメント
カテゴリ その他
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大人はどうして働くの?
宮本 恵理子
選手に問いかけたこと
その昔、社会人ラグビーチームのトレーナーだった頃、ただ一度だけトレーナーではない立場で部員全員の前で話をする時間をもらった。その頃のチームは閉塞感が強く、やらされているムードの中なかなか結果を出せずに、選手の間で不満が蓄積していた。私が問いかけたかったことは、改めて言うまでもないと一笑に付されるようなシンプルなものだった。「なぜラグビーをしているのか」。学生の頃からラグビー漬けで、ラグビーをすることでトップチームにたどり着いた選手たちはラグビーを仕事にできた限られた人間だ。ラグビーでは誰にも負けたくないという自尊心があるはずだ。それなのになぜやらされて文句ばかり言っているのか。なぜ自分の意思でやるべきことに立ち向かおうとしないのか。
わかっていて当たり前のことで、しかもコーチのやり方に疑義ありとも受け取れる話をあえてすることは、役割分担が明確なチームでは控えるべきだったとは思うし、だから何が変わったというわけではない。しかし、その頃のチームが認識を改めるべき一点だったし、心から不思議で問わずにはいられなかった純粋な疑問だった。
言葉の放つ輝き
さて「大人はどうして働くの?」と子どもの純真な眼差しで問われたなら、どう答えられるだろう。本書では「7人の識者」にこの質問をして得られた回答を、編著者である宮本恵理子氏が文章に起こしている。日経キッズプラスの単行本ということで、インタビュー内容を本書の後半で大人編としてまとめ、前半部分では子どもたちに語りかけるような文章に改めて載せている。いや、もしかしたら逆なのかもしれない。
いずれにせよ、子どもたちに語りかけるその口調のほうが心に響く。「夢中になれるから」「勉強したいと思えるから」「次の世代に受け継ぐため」「最高に面白い謎解きの連続だから」「恩返しのために」「仲間と喜びや悲しみを分かち合えるから」など、そこだけ抜き出すと当たり前のことのように思える言葉たちも、自らの経験談の中で語られるときには輝きを放つ。
それぞれの答えはそれぞれの識者がそれぞれの人生の中でたどり着いたもので、そこに普遍的で唯一の解など存在しようもない。いい年をして脆弱な部分がまだ目につく我が身を鑑み、問いかける。自らがたどり着いた働く理由というものを、子どもたちの目をまっすぐに見つめながら話すことができるだろうか。そして希望を抱かせることができるだろうか。そんな人生を歩めているのだろうか。やんちゃな自分が年をとって丸くなってしまったのかもしれないが、50歳を目前にしてようやく隙のない良識を確立する覚悟ができたように思う。
高校生に求めるプロ意識
たとえば子ども向けの商品でも子ども向けビジネスと呼ばれるものでも、本当に子どもたちのためという良心を失わずに展開しているのか疑問に思うケースは枚挙にいとまがない。自分の子には絶対にしないという指導法を、他人の子どもたちに平気でできてしまうスポーツ指導者もその1つだ。
儲けが良心を簡単に凌駕する現代社会で、我ながらナイーブなことだとはわかっているし、良心など食い物にされても食い扶持にはならず、綺麗事だけで世の中渡れないことも一面事実だろう。思わぬ苦難に自棄することもあれば、羽目を外して良心に反した過ちを犯すこともある。しかし、働く上で良識を持ち続ける強靭さをやはり鍛え続けなければならないと思う。
考えてみれば高校のラグビー部で働いていた頃のほうが、選手たちにそんな話をする機会が多かった。ラグビーみたいな過酷な競技は人に言われてやらされるもんじゃない。だから高校生にもプロ意識を求めていた。「夢中になれるから」「向上したいと思えるから」戦うヤツらがいた。「後輩たちに受け継ぐため」汗を流すヤツらがいた。「最高に面白い謎解きの連続」として日々研鑽するヤツらがいた。母親への「恩返しのために」歯を食いしばるヤツらもいた。「仲間と喜びや悲しみを分かち合えるから」身体を張るヤツらがいた。
自分だけ得することなんか考えていなかった彼らは、訳知り顔の大人より「なぜそんなにしんどいことをしているのか」という理由を意識下で理解していたのではないか。そんな現場で働くスポーツ指導者やトレーナー、また教員などはその良識を失わずにいられる、いやそれ抜きには務められない仕事のはずだ。
甘い自分を叱咤して「どうしてその仕事をしているのか」胸を張って語れるような生き方をまだまだ追求しなければならない。「大人はどうして働くの?」なんて幸せな問いかけができる国に生きる幸運の下、根っこにそんな真っすぐな想いを持ち続けることができるなら、そのほうが気持ちいいではないか。
(山根 太治)
出版元:日経BP社
(掲載日:2014-09-10)
タグ:働く
カテゴリ 人生
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哲学的フットボール
マーク ペリマン Mark Perryman 見田 豊
「哲学」と「フットボール」をマッチメイクした面白い試みの本である。内容は、ポジションの特徴にそれぞれ哲学者のパーソナリティを当てはめていきながらゲームが展開されていくというもの。メンバーの思想なり主張なりをあらかじめ頭にインプットしてから、読み始めることをお勧めしたい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:日経BP
(掲載日:2000-01-10)
タグ:哲学 フットボール
カテゴリ その他
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心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには
高尾 美穂
この本を手に取る方は、きっとこのタイトルに答えを欲していると思います。産婦人科医でスポーツドクターで産業医で、ヨガの指導者という多くの肩書をもつモヒカン医師、高尾美穂先生がコロナ禍で始めたラジオ「高尾美穂からのリアルボイス」にて配信した内容をまとめた一冊。
・「私らしい私」をつくるには?
・つらい気持ち、不安とどう向き合う?
・こんなコミュニケーションが望ましい
・女性の体について知ってほしいこと
・人には聞けない性の悩みに答える
・これからの家族とパートナーシップのあり方
・人生とキャリアの歩み方
・私が人生でしていきたいこと
・高尾美穂から「妹たちへ」
と、9つのチャプターに分けて様々な質問に答えたり、アドバイスをしたりしています。
女性のココロとカラダを熟知した先生の言葉は、多様性やジェンダー問題が問われるこの時代の人生にとって、ちょっとしたヒントになりました。私自身の不安や悩みだけでなく、仕事上、相談を持ちかけられることも多々あるので、答え方や言葉の選び方という点で、非常に勉強になった一冊です。
(山口 玲奈)
出版元:日経BP
(掲載日:2022-02-25)
タグ:女性 身体 コミュニケーション 性
カテゴリ 人生
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B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史
大島 和人
本書は近年のプロバスケットボールリーグの変遷が書かれたドキュメントです。さほどバスケットボールに詳しくなかった私でもリーグが分裂し、そこからの対立により国際バスケットボール連盟(FIBA)から国際資格停止処分を受けるかもしれないといった問題があったことは記憶にありました。「内紛」「主導権争い」といえばその通りなんですが、本書を読むことでその背景であったりスポーツの在り方の変化、さらには90年代のバブル崩壊が絡んでいることがわかり、単なるお家騒動として片づけられる問題ではなかったことに気づきました。本書で記されるバスケットボールリーグの内紛も、遡ればオリンピックにおけるアマチュアリズムの変化が根底にあるように思えました。今日オリンピックにはプロのアスリートが出場することに違和感を覚えなくなりましたが、80年代まではプロ・アマの論争がありました。日本においても一部のスポーツを除いては企業がクラブ活動みたいな体裁としてチームを保有し、少なくともスポーツそのもので利潤を上げるという形態ではありませんでした。そのころはオリンピックに準じた感じでアマチュアスポーツとしてバスケットボールが当たり前だと思っていましたが、チームを保有する企業がバブル崩壊とともにスポーツに資金を投じる余裕がなくなり雲行きが変わります。
本書ではそこのところの事情はサラッと触れられている程度でしたが、問題の背景は、それまで安泰だったチームがプロスポーツとして利益を上げることで存続する必要が生まれたことだと感じました。NBLとbjリーグが悪者でB.LEAGUEを誕生させた人たちが正しいという単純な図式ではなかったことを踏まえて読めば、これまで企業のクラブチームとして運営してきたNBLと純然たるプロリーグを作ろうとしたbjリーグの資金力の乏しさ、それぞれの問題点のぶつかり合いが本書の紛争を生んだのではないかと考えられそうです。そこにFIBAからの条件付き処分があったことでB.LEAGUEの誕生を加速させたことは間違いなさそうです。
本書ではプロリーグ誕生のロールモデルとして描かれていますが、むしろ今後の運営に注目したいものです。サッカーやバスケットボールやバレーボールなど、スポーツがビジネスとして変革をとげました。これからはどうやって軌道に乗せていくかで未来のスポーツ界が変わるでしょう。
(辻田 浩志)
出版元:日経BP
(掲載日:2023-10-20)
タグ:バスケットボール
カテゴリ その他
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