なんのために勝つのか。 ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論
廣瀬 俊朗
驚かされたキャンテンシー
2016年1月11日に行われた第95回全国高校ラグビー大会決勝、東海大学付属仰星高等学校対桐蔭学園高等学校の一戦は、頂点を争うにふさわしい見ごたえのあるものだった。桐蔭学園のアタッキングシステムは完成度が極めて高く、準決勝まで対戦相手を圧倒してきた。一方の東海大仰星は準々決勝、準決勝と僅差の試合を競り勝ってきていた。
決勝の試合で私が気になったのは、まず東海大仰星のディフェンスラインだった。準決勝の東福岡戦とは味付けを変えていたからだ。そしてチームシステムの動きの中に垣間見える選手の自由な判断力。これは東海大仰星のほうがうまく機能していたように思う。私は東海大仰星キャプテン、真野の野生的な顔を思い浮かべていた。状況を見極めて反応する仰星ラグビーのキーパーソンの顔を。
彼をはじめとする東海大仰星の中心選手は2015年の和歌山国体のオール大阪少年ラグビーチームに召集され、真野はそこでもキャプテンを務めた。私がトレーナーとしてお手伝いさせてもらった関係で、ほんの短期間だが彼らを間近で見ることができた。そこで驚かされたのは真野のキャンテンシーだ。彼はさほど大きくはない身体を、よほどストイックでなければ辿り着けない鋼に仕上げていた。彼が発する言葉は、ミーティングや試合の度に選手だけではなくスタッフをも奮い立たせた。そして言葉の強さだけでなく、自分たちのすべきことやできることを理解した上で相手を分析し、最善の戦い方を対戦相手ごとに具体的に示していた。そしてグラウンドでは身体を張って自らの使命を遂行していた。そこには確固たる決意と覚悟が感じられた。他の東海大仰星の選手をはじめ、他校の選手でも自律している選手は多かったが、年若い彼を私はほとんど尊敬の念で見ていた。
試合に出なくても
さて、本書『なんのために勝つのか』は、昨年日本を湧かせたラグビー日本代表、エディージャパンの初代キャプテンである廣瀬俊朗氏によるリーダーシップ論である。彼はエディージャパン発足のときにキャプテンに選ばれたが途中交代となり、W杯ではとうとうピッチに立つことはなかった。そんな立場での彼のチームへの献身的なサポートは美談として取り上げられたりもしたが、軽々しく称えられるような単純なものではないだろう。身を切るような懊おうのう悩を経てのその献身の一端を、本書から垣間見ることができる。
彼が試合に出なくてもチームに不可欠な存在であり続けたのは、類稀なるリーダーシップによるものだろう。「ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論」とサブタイトルにある本書では、実はリーダーシップとは何かということについてはあまり語られていない。廣瀬氏がラグビーを通じて、物事をどのように捉え、考え、そして仲間と共にどのように行動してきたのかについて多く語られている。わかったようにリーダーシップとはこうあるべきだと理屈で書かれるよりも、個人的には好ましい。なぜなら自らを練り上げることが根幹になければ、本質的なリーダーシップについて語れないからだ。花園に出られなかったチームに所属していたにもかかわらず高校日本代表のキャプテンを務めたことからも想像できるように、早くから彼のその素質は磨かれていたのだろう。
社会人チーム12年目、34歳である彼のトッププレイヤーとしてのキャリアに残された時間は多くない。しかしこのような人材は、今後ラグビー界で、いやその領域を超えた世界でも活躍を続けていくはずだ。
仲間とともに
話は戻るが、今年度の東海大仰星の3年生はサイズも小さく、早くから谷間の世代だと言われていたらしい。しかしそのような状態だからこそ彼らは勝ちたいと思っただろう。そして考えただろう、どうすれば勝てるのかを。掲げただろう、自分たちの「大義」を。考えて、考えて、いつもどうすべきなのかを考え抜いて、「覚悟」を決めてやるべきことをやり、やるべきでないことを排除してきたのだろう。
キャプテン真野は優れた人材だ。決勝戦でも2本のトライを自らあげた。文字通りもぎ取るようなトライだった。しかし、どれだけ流れを生み出せる優れたリーダーがいても、ひとりでできることなど限られる。素晴らしい仲間と巡り合って初めてリーダーは活かされる。仲間に恵まれることもリーダーの条件なのだ。彼らはともに「ハードワーク」してきたのだろう。国体というごく限られた時間の中でも「One Team」をつくり上げた彼らの若い力は、3年近く苦楽を共にした自分たちのチームではもっと濃密に熟成され昇華してきたのだろう。彼らの人生にとって計り知れない価値があったことは間違いない。尊敬に値する。
「なんのために勝つのか」
この二人のリーダーは、素晴らしいリーダーシップを発揮し、素晴らしい仲間に恵まれ、ジャパンはW杯で歴史的勝利をあげ、東海大仰星は全国大会を制した。しかし多くの人にとって「勝つ」とは対戦相手に勝利することだけではない。掲げた目標を達成すること、昨日の自分より少しでも成長すること、困難な状況に負けないこと、間違ったことをしないこと、人を思いやる力を持つこと、仲間を大切にすること、たとえ望むような結果が得られないとしても、これらを体現しようとする覚悟と姿勢を持ち続けるだけでも、小さな勝利は日々積み上げられていくはずだ。そしてその取り組みは人生を豊かにしてくれるだろう。「なんのために勝つのか」とは、つまり「なんのために生きるのか」という問いでもあるのだから。
(山根 太治)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2016-03-10)
タグ:リーダーシップ ラグビー
カテゴリ 指導
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問いかけ続ける 世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範
ジェイムズ・カー 恒川 正志
「カ・マテ! カ・マテ!」(死ぬ!・死ぬ!)
「カ・オラ! カ・オラ!」(生きる!・生きる!)
これは、ラグビー世界最強のオールブラックスこと、ニュージーランド代表チームが試合開始前に行う先住民マオリ族の儀式の言葉の一つです。ハカによって、先住民の魂を呼び戻すと言われています。
その「ハカ」が、オールブラックスの強さの秘訣と言えばそれまでですが、この書籍では一つのラグビーチーム・フィフティーンになぞらえて15の章でオールブラックスに伝わる行動規範を強さの秘訣として伝えています。
この書籍のタイトルにもある「問いかけ続ける」伝統こそが、勝ち続けるチームの秘訣であると説いています。この書籍では、ラグビーというスポーツですが、会社で働くビジネスマンにも通じます。スポーツとビジネスの違いがあっても組織で動くことには変わりないからです。
勝率8割以上という驚異的な数字を残すオールブラックスは、試合で勝つという結果を残しています。各章で紹介されている項目が正しいマインドセットを整え、この勝利という裏づけとなりました。
個人が組織で働く際、個人のパフォーマンスを最大にする必要があります。しかし、ただパフォーマンスを上げれば良いわけではなく一個人として秩序とマナーを守ってこそよい組織になります。とりわけ、オールブラックスには15個のマインドセットが浸透し、同じ方向を向いて勝利へと進んでいます。
本書では、2004年の主要メンバーの話が出てきます。この当時に起きた問題からオールブラックスが復活を遂げた「問いかけ続ける」本質を分かりやすく紹介されています。もうすぐ日本初開催のラグビーW杯が開幕します。どのチームが栄冠を勝ち取るのか、この書籍を読みながら観戦するのも面白いと思います。
(中地 圭太)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2019-09-19)
タグ:ラグビー オールブラックス
カテゴリ 指導
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コンカレントトレーニング 最高のパフォーマンスを引き出す「トレーニング順序」の最適解
モリーズ・シューマン ベント・ロンネスタッド 稲見 崇孝 峯田 晋史郎 山岸 卓樹 山口 翔大
持久性トレーニングとレジスタンストレーニング。パフォーマンス向上にも健康づくりにも欠かせないが、気軽に同時に高められるかというとそうはいかない。ただ、相互干渉作用についての思い込みも現場にはあるという。本書はそれぞれのトレーニングの分子・生物学的適応、神経系の適応からひもとき、互いが互いに及ぼす影響を踏まえて、年代別・種目特性別に効果的な取り入れ方を述べている。コンカレントトレーニングの日本語での定義を始め、丁寧に翻訳されており、読みやすい。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2021-03-10)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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アスピーガールの心と体を守る性のルール
デビ・ブラウン 村山 光子 吉野 智子
通過儀礼
私が身を置く大学は47都道府県すべてから学生を受け入れ、“医療の谷間に灯をともす。”という理念の下、へき地医療を中心とした地域医療を支える医師を育てることを目的としている。
卒業後それぞれの出身地に戻り、地域の中核病院で研修医として 2 ~ 3 年のあいだ働いて力をつけた後、各地の町・村・離島・山間の診療所へと赴くことになっている。
そこで多くの卒業生が大変なカルチャーショックを受ける。これまで学んだ最先端の医療を施してやろうと意気込んでイナカに乗り込んだにもかかわらず、まったく住民から受け入れてもらえないからだ。
そのような通過儀礼を経て初めて、地域のニーズに合った(患者のための)医療とはどんなものかと原点に返って医学を学びなおし、医師としての本当のスタートを切ることになる。
これと似たようなことを、私は赴任したての頃この大学で味わったことを思い出した。
東京で数々の一流選手を見てきた経験から最高のアドバイスをしているつもりが、ウチの学生にはちっとも通じないのだ。なぜ理解できないのだと最初は怒りに震え、これまで会ってきた一流選手たちは一瞬でわかってくれたぞと声を張り上げてはみるものの、学生たちは困惑の表情を浮かべるばかりだった。
これでは駄目だと自分の実力(数々の一流選手に会えたのも決して自分の力ではなかったことも併せて)に気づくのに鈍感な私は数年かかったが、“体育界”の人たちにしか通じなかった感覚を言葉として表す試みを続け、少しずつ分かってもらえるようになった頃やっと“体育教師”としての生活が始まったという実感を得ることができた。
「性のルール」
さて今回は、『アスピーガールの心と体を守る性のルール』。著者のデビ・ブラウンはスコットランド在住で、「アスペルガー当事者」でもある自閉症の研究者だ。
「アスピーガール」とは「アスペルガーの女の子や女性」のことを指している。彼女たちは「こちらが常識やある程度の知識を持っていることを前提として」「曖昧な教え方」をすると理解できず、「誤解して受け取ってしまうことも」ある。だから(世間の考え方に合わせているつもりで)“あたりまえ”の行動をすると、“とんでもない”と世間から批判を受け、「批判されることに敏感なので、深く傷つく」ことが多いという。
とくに「性」に関することは、「体の中で最も敏感で繊細な部分を他人にさらす行為であるため傷つくリスクも高く」なるので、「アスピーガールを守るために」「正しい知識」を身に付けることが重要になる。さらにたとえば「絶対に彼氏にしてはいけない人」の筆頭に「家族や親戚。(父親、義父、叔父、祖父、兄弟など)」が挙げられている。アスペルガーでない者にとっては少々驚く記述だが、アスピーガ ールにとっては「基本的であっても一から確認すること」が重要なのだという。
デリケートな話題だからこそ、丁寧に、可能な限りわかりやすく、しかし直接的な表現は極力用いず淡々と綴られていく。
当たり前の確認
読み進めていくうちに「性」についてこのような、解剖学的・生理学的“以外”の方法による説明に触れる機会は、アスピーガールか否かにかかわらずなかなかないのではないかということに気がついた。また、「性」に関することに限らず様々な“あたりまえ”について、「基本的であっても一から確認」し考え直してみることも人生(職業人としての人生も含め)のなかでは必要なのではないかとも思った。
翻って、今年も全国から末頼もしい学生たちが入学し学園生活にもだいぶ慣れてきたころである。彼ら、彼女らとの年齢・世代的な隔たりがますます大きくなる私にとって、「アスピーガール」に対するのと同じくらい慎重に言葉を選び、学生たちに向か い合っていくことが、これからの課題としてあげられると思うのである。
(板井 美浩)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2017-06-10)
タグ:人生 性教育 アスペルガー
カテゴリ その他
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スポーツ医学検定 公式テキスト スポーツを愛するすべての人に
日本スポーツ医学検定機構
2017年5月に第1回の開催を予定しているスポーツ医学検定。本書はその3級(ベーシック)と2級(アドバンス)に対応しており、巻末には練習問題もあるが、受検予定でなくとも入門書として読める。前書きにもあるように、スポーツのやり方は学校の授業などでも習うが、身体やケガの知識を学ぶ機会は意外に少ない。本書では身体の各部位の名称と機能、起こりやすいケガの診断や予防、そしてアスリハについてコンパクトながらも詳しくまとめられている。帯同できる日が限られている現場では本書を選手・スタッフに読んでおいてもらうのもよいかもしれない。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:東洋館出版社
(掲載日:2017-06-10)
タグ:検定
カテゴリ スポーツ医科学
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