KGBスパイ式記憶術
カミール・グーリーイェヴ デニス・ブーキン 岡本 麻左子
記憶することは技術であること、筋肉のように反復刺激によって発達することは、証明されている。
本書は記憶法のワークブックとして優れている。また、記憶に関わる理論的な説明も充実している。キーワードを挙げると、トニー・ブザンのマインドマップ、ミハイ・チクセントミハイのフロー、エビングハウスの忘却曲線、ツァイガルニク効果など。
本書では記憶法をストーリー記憶法と、場所記憶法に大別している。ストーリー記憶法は、覚えたい対象を頭の中で視覚イメージに置き変え、物語にすることだ。場所記憶法は、自分が日頃過ごしている環境(自宅、職場、学校など)を想像し、覚えたい対象をそこにあるものと結びつけていく。応用編として身体各部位と結びつける方法も紹介されていて面白かった。
記憶することのポイントは3つあるという。
①関連づけ
②イメージ
③感情
自分が知っていることがらと、結びつけることができれば忘れにくい。ものごとを類推すること。記憶すればするほど記憶しやすくなるということでもある。さらに、ひとの感覚中、もっとも得意な視覚イメージに変換することが、記憶するには有効だ。たとえば数字を覚える場合、0→ボール、8→めがね、と置き換えるなど(ほかにも発音の関連で置き換えたり、数字の場合チャンク化することもできる)。感情を伴った記憶というのは忘れにくい。なので、奇抜でインパクトのある覚え方などは、ばかげていると思うかもしれないが、逆説的に賢い方法だ。
場所法は古代ローマの時代から使われてきた方法らしい。知っているかぎりでは、あの悪名高いハンニバル・レクター博士とか、メンタリストのパトリック・ジェーンも賭けポーカーで利用していた。抜群の記憶力を持つソロモン・シェレシェフスキーは数字などを視覚イメージ化したり、単語を地元の街の通りに配置したりして、覚えていた。もうひとつ、彼には共感覚があった。文字に色を感じたり、音の手触りや、形の味を感じたりする感覚だ。なんと、嗅覚以外の五感がすべて結びついていたらしい。
共感覚についてはダニエル・タメット「ぼくには数字が風景に見える」をおすすめしたい。さらに脳・記憶などについては、最新のエビデンスとともにわかりやすく解説してくれる池谷裕二さんの著作を推したい。
(塩﨑 由規)
出版元:水王舎
(掲載日:2022-10-04)
タグ:記憶術
カテゴリ その他
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運動部顧問・スポーツクラブコーチのための ベストパフォーマンスを引き出すコーチ力
高畑 好秀 小林 雄二
少しずつスポーツの世界が変わろうとしています。選手だけではなく指導者も環境も変わりつつあります。パフォーマンスの向上や試合に勝つという目的のためという理由は変わらないのかもしれませんが、選手と指導者の関係の変化が本書の根底にあるのではないでしょうか。むかしは「師弟関係」という主従関係に近い関係性がスポーツにも持ち込まれ、鍛錬(練習)のみならず、考え方までも弟子に継承するという日本古来からのシステムから、合目的的な観点から組織をマネジメントするという関係性にシフトチェンジしつつあります。さらにスポーツ医科学の発展が必須要素となった現代では座組を変えざるを得ないところまで来ているように見受けます。
さて本書は冒頭で指導者の意識改革を声高に訴えていますが、これは逆に30年40年まえの意識で指導されている方々の多さを表しているのでしょう。スポーツの世界だけではなく指導者は自身の経験があり、それにのっとった指導をされるのがフツウでしょう。しかしながら現役の選手の意識や考え方、技術的な変化、医科学の発展などが変化する以上アップデートができないと多くの面でギャップが生まれます。筆者の考え方は今風の考え方を取り入れるというよりも根底から変えるくらいの意識改革を訴えておられるように感じました。
チームのコンセプトを明確にし全員で共有すること第一に挙げられていますが、特定の一部の選手を育てるという発想と真逆の考え方です。おそらくそういった考え方を具現化するためにコミュニケーションの取り方を細かく解説しているようです。自分の常識が他の人に当てはまらないのが前提となります。考え方が違う人間が多数集まったチームという集団を、同じ方向、同じ考えに導くコミュニケーションはきめが細やかです。驚いたのは寝坊でよく遅刻をするプロ野球選手と話し合ったら、目覚まし時計を使えばいいという結論に至ったというくだりがありました。プロ野球選手といえば最高レベルのアスリートになりますが、そんな人でも目覚まし時計に意識が向かなかったというのは笑えないお話です。スポーツの能力が高くてもそれ以外の意識が低いなんてことはありがちなのかもしれません。意思の疎通は徹底的にやるという筆者の執念みたいなのを感じました。それでいて長い説教はしない。自分の意見を押し付けない。むやみに相手を否定しないなど会社の管理職の人にも読んでいただきたい内容です。
このような接し方を基礎にして選手のモチベーションを上げたり、間違っているときは叱ったりと、これからの時代の指導者は大変な役割を担います。「黙ってオレについてこい」では選手がついてこない時代にお嘆きの指導者もいらっしゃるでしょう。今や指導者が先頭に立って引っ張っていくのではなく、時には先頭に立って時には選手の輪の中に入って、時には最後尾から選手を押して支える。八面六臂の活躍を要求される立場に変わってきたのかもしれません。
(辻田 浩志)
出版元:水王舎
(掲載日:2024-09-04)
タグ:コーチング コミュニケーション
カテゴリ 指導
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