ブレインスポッティング・スポーツワーク トラウマ克服の心理療法
David Grand Alan Goldberg 久保 隆司
スポーツは楽しむために行うもので、昨今、娯楽としての需要が増えつつある、そのことに対して異を唱える人は少ないでしょう。
日常において身体を隅々まで使って生活を営む必要が少なくなった現代において、健康維持のためにスポーツに取り組む意義が大きくなってきているのも間違いないと思います。
また、競技スポーツにおける成功は、人生における選択肢を増やすための大きな糧となるでしょう。
しかし、だからといって、スポーツに自分の全てをかけるというのは、いささか行き過ぎなのではないかと感じます。狙ったところにボールを蹴ることができる、遠くまでボールを打って飛ばすことができる、そんな能力が現代の世界で生活していくためにどれほど役に立つというのでしょうか?
本書は、アスリートの心身の問題がいかにそのパフォーマンスに影響するかを示したものです。その心身の問題というのは、意識できる範囲のものだけでなく、その人が体験してきたすべてのものを指します。つまりは、アスリートのパフォーマンスの問題は、全人間的に捉えていかなければならないということです。
全人間的ということは、スポーツというものがその人の人生にとってごく一部ということを知ることであり、パフォーマンスのみでその人を判断することは愚の骨頂であるということです。
本書には、スポーツ活動とともに人生自体がうまくいかなかった例が出てきます。アスリートを機械的に捉え人間としての心や感情を無視した結果起こる悲劇的な出来事は、スポーツに取り組む代償としてはあまりにも大きすぎます。
昨今叫ばれている「アスリートファースト」を、アスリートの競技環境に配慮することと捉えるだけでは片手落ちとなってしまうでしょう。
スポーツに関わる全ての人が、アスリートを一人の人間として捉え、関わっていくことが、真のアスリートファーストであると強く思います。
(永田 将行)
出版元:BABジャパン
(掲載日:2018-04-27)
タグ:イップス スランプ 心理療法
カテゴリ メンタル
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夢を喜びに変える 自超力
松田 丈志 久世 由美子
このような成功の物語を読んで思うのは、同じような努力を積み重ねたにもかかわらずここにたどり着けなかった者たちのこと。たぶん、いるはず。
チャンピオンスポーツの無慈悲な部分であるのだが、チャンピオンになれるのは基本ひとり。それ以外の者たちとチャンピオンの差は、誰かが勝って、誰かが負けてみないとわからない。そして負けた者たちの物語が分からないので、結局のところ、差は分からないまま。なので、成功の秘訣として役に立てようとして読むのではなく、成功物語エンタテイメントとして読むくらいがちょうど良いのではないかと思う。
スポーツの成功に向けた取り組みは、実生活に活かせる部分が多くあるのだが、それがそのまま生かせるかというと疑問符が付く。スポーツは、やることが決まっている、結果を出すべき大会も決まっている。実生活は、やることは無数にあり、生活における結果ってなんだろう?
水泳という種目では、泳法が決められ、泳ぐ方向が決められ、一斉にスタートし、順位がつけられ…と、いろんな制限によりやることが決められていく。生活をプールの中に無理やり当てはめるならば、どの方向に泳ごうが、ボールを投げようが、何m潜ろうが自由な状態だ。そんな状況で順位や成功はどのようにして決まるのだろう。
彼らがやっていることは、やれることを、とことんやっているということである。やれないことには目もくれず。そのことから得られる実生活に活かせる学びとしては、「制限をかける」とか「限定する」とか、流行の言葉でいえば「選択と集中」ということになるのではないかと思う。
そしてそれを一言に昇華させると「本気」になるのではないかと思う。
目標を掲げ、本気になって取り組んできた二人の物語は、心を奮い立たせてくれます。
目標があっても一歩踏み出せていない人は是非ご一読を。
(永田 将行)
出版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
(掲載日:2018-04-28)
タグ:水泳 コーチング
カテゴリ 指導
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スポーツ現場の傷害調査 ケガの予防につなげるための取り組み
砂川 憲彦
スポーツにケガはつきものです。ケガを恐れたぬるい練習では強くなりません。また、プロスポーツにおいて、ケガを恐れた中途半端なプレーで人を感動させることはできないでしょう。
だからといってケガをする状況を放置しておいてよいはずもありません。
無事これ名馬、との言葉どおり、優秀な選手はケガが少ないと言えます。しかし、ケガの原因を個人の資質のみに求めるのは無理があります。選手が安全に、安心できる環境があってこそ自身の限界に挑めるのであり、スポーツ選手に関わる人々は、そのような環境を常に構築、保持していかなければなりません。個人の感想ですが、選手が安全安心と感じる環境を提供できている現場はケガが少なく、たとえケガをしたとしても治癒が早い印象を持っています。
本書は、選手が安全に、安心を感じるための環境づくりの礎として、自分の関わる場においてどのような傷害がどのように起きているのかを、科学的に把握する方法を解説したものです。 他の解説書と一線を画すのは、著者の取り組みにおける悩みや、試行錯誤が語られており、これから傷害予防に関わろうとする者の心情に沿ったものになっている点であると言えます。
チームで起こっているケガを把握するための第一歩として最良の一冊であると言えます。
(永田 将行)
出版元:ブックハウス・エイチディ
(掲載日:2018-05-17)
タグ:傷害調査 傷害予防
カテゴリ スポーツ医科学
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人口の心理学へ 少子高齢社会の命と心
柏木 惠子 高橋 惠子
少子は、確かに問題ではあるが、実はそれは解決方法でもあった、というのが本書を読んでの率直な感想である。 問題として提示されているものが、なにかしらの結果であるというのはよくあることで、少子化に限らず何かの課題、問題を理解するのに有用な視点であると言える。
医療をはじめとした科学技術の進歩は、不慮の死を人類から遠ざけ、生活の糧を得る、子どもを育て上げるといった、旧来の価値からの解放をもたらした。現代的に言えば、自分らしく生きる、という時代になった。とくに、女性においての変化は大きく、かつてない価値観の変化がもたらされている。
子どもを産むということが、授かるものではなく、選択するものになり、ある種のリスクとして捉えられるようになった。現代社会の課題とされていることの多くが、そこに至る背景やそこからもたらされる人々の心理を抜きには考えられないことが示されている。人類史上、だれも経験したことのないこの少子高齢化という事態に、しかもそれが、かつてあったどのような変化よりも短期間に起こっているということに、どのように適応していくかの答えは誰も持ち合わせていないのが現実である。ならば、まずは本書のように、目の前の世界の実際をつぶさに観察し理解することから始めなければならないと思う。
本書の内容を、受け入れがたい人も大勢いるであろうが、少子高齢化を問題として捉えそれを解消しようとするのは、臭いものに蓋をするだけであろう。抗いがたいこの大きな流れの中で生きていくためには、これまでにない柔軟な思考や行動が求められる。それは、自分自身で考えていかなければならない、困難な時代であると言えるが、自分に見合った世界が見つけられるかもしれない機会に恵まれた時代でもある。
意外と、生きやすい時代かもしれない。
(永田 将行)
出版元:ちとせプレス
(掲載日:2018-09-03)
タグ:少子化 少子高齢社会
カテゴリ その他
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カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる
宮崎 隆司 熊崎 敬
スポーツは教育ではないと言われますが、スポーツを通じて学ぶこともあるわけで、一概にそうとも言い切れないように思います。教育は、その組織化の度合いによって定型的と非定型的とに区別されます。前者は、学校などの組織を指し教えるということが中心に行われ、後者では、各家庭や地域などで多様な教育(例えば躾、人付き合いなど)が行われます。本書を通して日本とイタリアの子ども年代のサッカー環境を比べてみて、定型的な日本、非定型的なイタリア、という感想を持ちました。
サッカーを遊びと捉えるか、教育と捉えるか。サッカーは遊びであり、あくまで自由な自己表現手段の一つと捉えるイタリアの考えは、眩しく見えます。一方、スポーツに取り組むことを道として考え、一意専心にとりくむ日本的な姿に美しさを感じるのも、捨てきれないように感じます。
スポーツと教育が結びつくことの弊害については、それは、教育というものの射程をどの程度に設定するかによって異なってくるのでしょう。
スポーツをどのように捉えるかは、もっと自由に、多様性があって良いのだと思います。
(永田 将行)
出版元:内外出版社
(掲載日:2019-03-27)
タグ:サッカー イタリア
カテゴリ 指導
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怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析
白井 裕之
この本を、具体的な指導法が書いてあると思って手に取った方は、肩透かしをくらうであろう。なぜなら、具体的な指導法についてはほとんど書いてないからである。その具体的な指導法を愚直に求める姿勢こそが、日本のサッカー界ひいてはスポーツ界の負の側面であると感じる。自分が取り組むスポーツの本質を理解しようとせず、派手でやらせた感だけが得られる練習方法だけをなぞってばかりいるから、いつまでも血肉とならないのである。
この本に書いてあることは、サッカーとはどういうスポーツか? ということだけである。オランダらしい合理性、物事を単純明快に区切る潔さで、サッカーというゲームの理解を飛躍的に高めてくれる一冊である。正解を求めてばかりいる浅い指導者には、荷が重い一冊とも言える。
(永田 将行)
出版元:ソル・メディア
(掲載日:2019-12-16)
タグ:サッカー コーチ
カテゴリ 指導
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