最強のコーチング
清宮 克幸
「コーチ」「コーチング」という言葉の語源は、ハンガリーの「Kocs」であるといわれている。Kocs村では四輪の旅客用馬車を製造しており、そこから「大切な人をその人が望むとこまで送り届ける」という動詞の意味が生まれたそうである。スポーツの世界では、選手が本来持っている能力や可能性を引き出すという意味合いで用いられていることが多い。
本書の著者は清宮克幸氏である。スポーツの世界に身をおく人間として、氏の名前を知らない者は少ないだろう。2001年に早稲田大学ラグビー部の監督として就任後、長年低迷していた同チームを2003年には13年ぶりの大学選手権優勝に導き、また2005年、2006年には31年ぶりの大学選手権連覇を達成するなど、大学ラグビー界最強のチームに成長させた。また2006-2007年シーズンより2009年-2010年シーズンまでは、サントリーサンゴリアスの監督として日本トップレベルのラグビーチームを率い、その活躍は周知の通りである。
清宮氏の常にぶれないコーチング理論・哲学をかいまみることができる。コーチングにおける「周辺視」「目的の明確化」「人材の適材適所」「目標の数値化」「競争と同士愛」そして「場」の重要性、さらにセオリーを重要視しながらも、それにこだわりをみせない柔軟な姿勢の大切さが示され、なおかつそれは大学選手権3度の優勝という結果に裏づけられているのである。
優れたコーチング能力はコーチのみではなく、アスレティックトレーナー、ストレングストレーニングコーチなどスポーツ現場に関わるすべての人間にとって必要な要素である。私自身アスレティックトレーナーとして、個人や集団をまとめて目標達成へと導くことの難しさを多く経験してきている。当然のことながら、コーチング能力は自らのトライ&エラーにより身につけていくものであり、読書によって得られるものではない。ただ、本書により日本有数のスポーツコーチの考えに触れることで、自身の経験知のみによるコーチングを再考する有意義な機会になるのではなかろうか?
(越田 専太郎)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:コーチング
カテゴリ 指導
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スポーツのための筋力トレーニング 練習メニュー120
有賀 誠司 石井 直方
筋力トレーニングがスポーツ選手から敬遠された時代は終わり、現在ではその重要性について疑問を呈する声もほとんど聞かれない。私の周りを見渡しても筋力トレーニングを定期的に実施する選手がほとんどであると感じる。一方で正しいフォームが理解できておらず、外傷が生じる可能性が高い危険なフォームでエクササイズを実施している選手は意外と多い。実際にスポーツ現場では筋力トレーニングによるスポーツ外傷も頻発しているようである。
本書は筋力トレーニングの指導書である。まず目につく特徴は、写真をふんだんに用い、かつ簡潔でわかりやすい文章によるエクササイズの説明がなされていることである。これは筋力トレーニングのエクササイズ種目を理解する際には大きな助けとなるに違いない。本書のような指導書には冗長な説明や溢れかえる専門用語はかえって理解の邪魔になる場合もあるだろうし、知識の少ない初級者の段階ではそれだけで読むことを敬遠したくなることさえあるに違いない。そういった意味で本書はこれから筋力トレーニングを開始しようというスポーツ選手にお勧めである。さらに、本書では正しいフォームを示すのみでなく、選手が犯しやすい間違ったフォームについても写真つきで例示されている。選手のトレーニングを指導する立場の方が一読されてもよいだろう。
本書の監修者である有賀誠司氏と石井直方氏は言わずと知れた筋肉、筋力トレーニングの専門家である。当然、読み進めればその内容は初級者のみを対象としたものではないことがわかる。また、その範囲は筋力トレーニングにとどまらない。ストレッチング、アジリティー、コーディネーショントレーニング、プライオメトリクス、ウォームアップ・クーリングダウンおよびプログラムデザインに及んでいる。いわば総合的なスポーツ選手のコンディショニングについて本書はカバーしているのである。
最後にはスポーツ別筋トレという項目が組まれており、各スポーツの競技特性を考慮してとくに推奨されるエクササイズが紹介されている。学生時代を柔道部で過ごした私としては、まず柔道の筋トレに目がいく。推奨エクササイズの1つに「柔道着懸垂」とある。これは鉄棒などに柔道着をかけ、襟または袖をつかんで行う懸垂のことである。手前味噌であるが、このエクササイズは私が以前指導していた大学柔道部のコーチが長年トレーニングに取り入れており、私もしきりに選手には勧めていた。書籍で推奨されると正直説得力が増すように思う。今度選手に「本でも紹介されてたよ」と伝えてみようかなとも思っている。
(越田 専太郎)
出版元:池田書店
(掲載日:2012-10-16)
タグ:トレーニング
カテゴリ トレーニング
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