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決断力

将棋界にも情報化の波が押し寄せたことで棋譜や戦術の研究が進み、情報力で差をつけることは困難になった現代は、数ある情報の中から最適な情報を取捨選択し、何が必要かを決断する力が求められる時代である。本書では棋士・羽生善治氏が将棋で培った「決断力」について語っている。
 中でもどのように深い集中に達するのか、その比喩が非常に興味深かった。著者は集中する過程を潜水にたとえ、水圧に徐々に身体を慣らすように、少しずつ深い集中へと自らを導いていくのだという。あまりに深く潜り過ぎると元に戻れないような恐怖感に襲われ、潜ることを焦ってしまうと集中の浅瀬でジタバタしてしまうのだそうだ。
 本書では幼少期から名人戦に至るまでの試行錯誤も語られているが、将棋への尽きない愛が著者を盤面に向かわせ、根拠を重ね続けたことが直感的な決断を支えたのだろう。天才棋士は将棋への愛に満ちた探求者であった。
(酒井 崇宏)



羽生善治 著

お腹を凹ませたい? だったら腹筋運動なんかやめちまえ!

 本書はお腹を凹ますために一番に選択されがちな「腹筋運動」について、それがお腹を本当に凹ます方法として適当なのかということを取り上げている。
 お腹を凹ますということを考えたとき、上体を起こしてくる腹筋運動を多くの人は選択するし、運動指導者でもやはりそのようなメニューを組むことが多い。いわば、お腹を凹ますための王道がこの腹筋運動とされている。これを選択する人たちは、お腹回りの脂肪がなくなってお腹が凹んでいくようになる自分を想像するが、実際にはそうはならないということである。むしろ非効率な運動であることなど、第一章では腹筋運動のダメなところをあげながら展開している。
 では、皆が気になるぽっこりお腹はどのようにつくられていくか。その実態をメタボ検診を例にあげ内臓脂肪と皮下脂肪との関係をわかりやすく説明し、効果的な運動として有酸素運動と食事制限であることを示している。また、内臓下垂もそのぽっこりお腹の原因であるということや、クビレをつくるためにはやはり身体をねじる運動は非効率的であること、実際に呼吸を使った運動法を示していることが注目である。  非効率的な運動は、お腹を凹ますことやくびれをつくることから遠ざかっていること、世の中で言われる「いい姿勢」にも実は無理があり、それらの改善がお腹を凹ますことや美脚につながったり、腰痛や膝の痛みの改善にまでつながっているということも紹介されている。
 全体として皆がやっている腹筋運動がお腹を凹ますという目的では非効率的であることをわかりやすく、また簡単な改善策を示しているあたりが読んでいてもまた実践していても無理なく進められる感じがある。またこの一冊が一般に広まることにより、お腹を凹ませたいという希望に対し、運動指導者が上体を起こすような腹筋運動を指導した場合、これ1つで指導者の理解度や勉強不足がわかってしまう、現場にいる人間としては、そんな指標になりかねない恐ろしさを感じてしまう。
 途中、呼吸に関する筋の働きなど、多少理解が異なる部分や、解剖学的に疑問に思う点、食事制限ではなく食生活の改善ではないかと思う点はあったりするが、おおむねの流れと理解として、お腹を凹ますためには何を選択するべきかの解決法を見い出せ、またそれが他の部位のトレーニングにおいてもその目的に対してどの方法が適当なのか、上手に解答を導けるようにできているあたりでこの本をオススメしたい。
 ちなみに私はこの本に紹介されている運動を2カ月ほど続けているが、持っているズボンはベルトなしでは履けなくなり、さらに前屈が増すという柔軟性まで手に入れた。 (藤田 のぞみ)



発行 インプレスコミュニケーションズ(電子書籍)

イップスの科学

「去年買ったクラブセット、いいなぁって言ってたけど、よかったら君に譲ってあげようか?」
「ははん…さてはもう飽きたな」
皮肉っぽく言った言葉に遼一は気分を害したのか、目をそむけてクルリと後ろを向いた。本来お調子者で自信家の遼一にしては拗ねたような態度だった。
「そんなんじゃないよ…」
彼の表情から、決して新しいクラブに心移りしたのが原因ではなさそうだと勇大は悟った。
「実は、やめようと思うんだ… ゴルフを…」
言葉尻が聞こえにくかったのだが遼一の雰囲気からすべてが伝わってきたような気がした。あまりに突拍子もない遼一のセリフに
「え?」
という言葉にならない疑問詞だけが勇大の口からこぼれ落ちた。
一番言いにくかった重大な発表を告げて多少心の落ち着きを取り戻したか、遼一はポツリポツリとその理由を話しだした。
「パターが打てないんだよ」
「打ち方がわからなくなったというよりも身体が硬直して動かないんだ…」
「無理に打とうとすればするほど身体が固まって、まるで金縛りにあったような感じになって…」
わずかながら遼一の声はうわずっていた。
「半年前くらいからだんだんパターになると全く人が変わったみたいに動かなくなって…」
「ちょっと待って!」
勇大は遼一の言葉を遮った。
「半年前といえば君が大会で優勝を遂げた、いわば君の一番よかったころじゃないか?」
どうも話がかみ合わない。半年前遼一がぶっちぎりの優勝を遂げ表彰台に上る姿をうらやましげに眺めていた勇大としては眩いばかりに輝く彼の姿が今でも印象深い。それなのにそのころからパターが打てないなんてどう考えても辻褄が合わない。それだけではない。それ以降大舞台になればなるほど彼の勝負強さは磨きがかかり、破竹の勢いで連戦連勝だったのだからそういう要素は微塵も感じなかった。だからこそ遼一の告白はまさに衝撃であり、彼が嘘をついているだとさえ思った。
しかし陽気で真面目な彼がそんな嘘をつくタイプでないことは一番わかっているつもりだったので、勇大の見ていた現実と彼が告げた現実の大きな矛盾に悩まざるを得なかった。
どうやら思いつきの気休めの言葉では事態は変わらないだろうと感じた勇大は以前お世話になったレッスンプロに解決策がないかを尋ねてみることにした。
「一度先生に聞いてみるよ」
「だから諦めるのは待って」
勇大は遼一の目を見据えそういった。
きっと言葉の力強さに何かを感じたのだろう。遼一は小さくうなずいた。

翌日さっそくレッスンプロの大崎のもとを尋ねた。
「そんなことってあるんですか?」
勇大は昨日のいきさつを大崎にすべて話した。
「よくあるんだよね。イップスってやつさ」
「一流選手がよくやるヤツで突然パターが打てなくなるんだ」
「どうやら自分自身に対する期待や周りからの期待がプレッシャーとなって襲い掛かり、精神的な呪縛が身体までを縛り付けるのが原因らしいね」
「イップスかぁ…」
勇大は初めて知る言葉の底知れぬ怖さを感じながらつぶやいた。
「それで! あるんですか? 治す方法…」
それを聞かなきゃここに来た意味がない。そんな思いで大崎の方に身を乗り出した。
「あるといえばあるし、ないといえばない」
どうも大崎の真意が理解できずにキョトンとする勇大に
「ちょっと待ってて、いいものあるから…」
勇大の肩をポンとたたいて大崎は事務所に戻り、一冊の本を持ってきた。
「これを読んでみなさい」
そういって差し出した本には『イップスの科学』というタイトルが見えた。
「この本は自分自身がイップスになりパットが打てなくなった著者がイップスの克服方法を調べて書いた本だよ」
「しかもこの本の作者の田辺規充さんはプロゴルファーではなくて精神科医だから、専門家としての詳しい分析もされている」
「だからイップスを克服しようとするなら参考になると思うよ」
勇大は目の前が明るくなったような気がした。
「それじゃ、治るんですね!」
大崎は答えることができなかった。少し間をおいて話し出した。
「イップスはそう簡単に治るもんでもないし、これをやればうまくいくという方法もないんだ」
「ただイップスになって現役を退くゴルファーも多い中で、あの手この手で克服していくゴルファーもいるのは確かなことなんだよ」
「あとは本人がやるかやらないかだけかな…」

釈然としない大崎の言葉がどこかに引っかかったまま『イップスの科学』を持ち帰って読んでみた。
「難しいんだなぁイップスって…」
「陽気で前向きな性格で闘争心が強くて真面目とくりゃ遼一の性格そのものだし、そういう人の方がイップスになりやすいなんて…」
「それってゴルフがうまくなる人の条件みたいなもんだし、うまい人ほどプレッシャーのかかる試合を経験する機会が多いはずだし…」
「ゴルフには意図してつくられたコース上のハザードとの戦いなんだけど、イップスってゴルフっていう競技が生み出した心のハザードじゃないか…」
勇大は心底そう感じた。

「一度この本を読んでみろよ」
遼一に差し出したのは昨日大崎からもらった本だった。
「イップスが治るかどうかわかんないけど、この本には克服するための手段がいくつも書いてある」
「もし君がやってみたいと思うなら試してみるといい」
「治るのか?」
昨日大崎にした同じ質問が返ってきた。
「わからんよ」
「ただ昨日この本を読んでいるうちに何年か前に君がバンカーショットで苦しんでたことを思いだしたんだ」
「あのときは毎日バンカーの練習をずっとやってたよね」
「ああ、あの練習のおかげでむしろバンカーショットが得意になったんだ」
遼一は何年か前の苦しみを思い出した。しかし今では得意になってしまったから自分でもそんな苦労も忘れてしまっていた。
「どうやらイップスは心のハザードみたいなんだ」
勇大は話を続けた。本のページをめくりながら遼一にひとつずつ説明をした。どうしてイップスになるのか?いろいろな自分でできる克服法や催眠療法・薬物療法の存在、イメージトレーニングの方法など…。本を読む必要がなくなるんじゃないかと思うほど延々と続いた。一生懸命に解説する勇大の目を見やった。こいつ真剣だわ…。話の内容そのものよりも勇大の迫力に圧倒されていたのかもしれない。
「君が新しいハザードを克服できるかどうかはわからない」
「でも今までそうやってゴルフがうまくなってきたんだろ?」
「できないんなら僕がクラブセットをもらってやるよ」
遼一は差し出された本を黙って受け取った。もちろんクラブセットを勇大に譲るという気持ちはとっくに消えていたが…。
(辻田 浩志)



田辺 規充 著

骨博士が教える「老いない体」のつくり方 実践編

本書は、老化に関して骨・軟骨との関係性に焦点を絞り解説している。
 著者は、老化と骨・軟骨への読者の根本的な理解を促し、その上で何が本当に必要なのかを提示する、といった非常に論理的で根拠に基づいた、段階的な説明の仕方をしている。これにより、読者自身がしっかりと納得・理解した上で、安心して読み進めて行けるような流れを作っている。
 さまざまな情報が混在する現代社会において、いかに正しい情報を収集し、賢く老化と付き合いながら充実した人生をを送るかについて指し示す1冊である。
 本書を開くと各項目が見開き1ページに収めてあり、読者が読みやすいよう、また項目ごとにいつでもすばやく開けるように配慮されている。イラストも豊富で、視覚的に理解しやすくなっているのも嬉しい点である。さらに、ほとんどのページにはその項目で述べられた内容がわかりやすく3つにまとめられた“Point”が記載されており、そこを読むだけでもざっくりと内容を振り返れるため、より読者の理解を深めるのに役立っている。
(藤井 歩)



鄭 雄一 著

輝け!日本女子シッティングバレー

テレビでたまたま車いすバスケット男子のパラリンピック出場とブラインドサッカーの敗退の報道を目にした。障害者スポーツ関連トピックがテレビやメディアに登場する度に、ワクワクする。「これを機に…(多くの人に知ってもらえれば)」という期待を持つからだ。しかしながら、「今年はロンドンオリンピック開催だ」と思う人は多いが、「ロンドンパラリンピック開催だ」と思う人が少ないように、やはり障害者スポーツのメディア露出度が少ない現状がある。
 そこでfacebookやmixiなどのSNSやブログを使ったメディア戦略を練っている障害者スポーツ団体もある。書籍も認知度アップのためのツールの1つになるのは間違いない。
 この著書ではシッティングバレーボールのルール紹介から始まり、シッティングバレーの日本代表選手(当時)を一人ずつ取り扱っている。シッティングバレーとの出会いや自分の障害との関わり、気持ちの変化などをつづっている。
 この本の著者は自分のお店を経営しながら、女子シッティングバレーボールナショナルチームを率いた監督である。障害者スポーツの現場で働くコーチ、トレーナー、マネージャー、協会の運営にあたるスタッフにはこの著者と同じようにイバラの道ならぬ自腹(ジバラ)の道をすすんでいる者が多くいる。例をあげるとすれば、世界大会以前の国内での強化合宿の交通費が一回で1~2万かかるとする。10回合宿を行えば、掛ける10である。それに加えて、宿泊費やその他もろもろ経費がかかってくる。そして、本番の国際大会のための貯蓄が必要になり、貯めなくてはならない金額を計算するのが億劫になってくる。
 国際大会出場! 日本代表! といっても、その背景には個人や組織の膨大な負担で運営されている、それが障害者スポーツの現状といってもよい。その現状を打破するためにはこういった書籍が一冊でも多く出版され、一人でも多くの人の手に渡ること。小さな取り組みから大きなムーブメントが起こることになると思いたい。今年のロンドンの後は、どういった変化が起こるのか楽しみである。ちなみにシッティングバレー女子は今年のロンドンパラに出場する。
(大塚 健吾)



真野 嘉久 著

人間の芯をつくる 本気の子育て

私が住む地域はだんじりが盛んで、公園や路地裏から子どもの「そうりゃ! そうりゃ!」の掛け声が年中聞こえてきます。なぜ、これだけ小さなころから、そして一生にわたって祭りが好きなのかというと、やはり子どもの頃から、大人そして地域が「本気」で楽しむ姿を見ているからだと思います。
 著者は格闘技を子どもに教えることを通じ、大人が「本気」になる重要性を説いています。また親の振る舞いが子どもに与える影響を指摘しています。「子どもにとって親は、自分の存在が確認できる原点だ。その親が、互いの悪口を言い合っていたら、子どもは自分の根っこへの信頼を失ってしまう。つまりは、“こどもの根が腐る”のだ」と述べています。仕事にしても遊びにしても、自分がどれだけ本気になれているか考えさせられた一冊です。
(打谷 昌紀)



須田 達史 著

DRUG, SPORT, AND POLITICS

偉大な記録を樹立したアスリートが禁止薬物を使用していたために失格になるというニュースがセンセーショナルに報じられることがある。失格になり、その記録が取り消されるだけではなく、過去の記録にも疑惑の目が向けられることもある。100mの金メダリストや、メジャーリーグのホームラン王などを思い出す人も多いだろう。
 また、急にめざましい活躍をするようになった選手にも正当な評価が得られにくかったり、その競技自体に薬物が蔓延しているイメージを持たれることもある。
 いったい禁止薬物とはどのようなものがあるのだろうか。最も一般的に思い浮かべられるだろう筋肉増強剤のほかにも、赤血球を増やし持久力を高めるもの、神経を興奮させ攻撃的になるもの、心拍数を抑え、手の細かな震えを抑えるもの、食欲を抑え減量の助けとなるものなど、さまざまな種類がある。それぞれに副作用があり、また、使用が判明したときには多大なる罰則が待っている。
 それでも不正薬物を使用する例は後を絶たない。それどころかトップアスリートの50%以上が「1年以内に副作用で死ぬとわかっていても、オリンピックの金メダルが確実に取れるならば薬物を使用するか」との問いに「イエス」と答えているというアンケートまである。
 なぜアスリートは薬物を使うのか? 筆者は、選手自身が薬物は他の何よりも選手の記録更新の助けとなり、薬物なしでは競技することはできないと考えているからだと説明する。しかし、薬物なしでも記録はつくられるし、戦うことはできるし、遅かれ早かれ、薬物による悪影響が身体を蝕む危険性を説いている。筆者はこの事態を、もはや選手個人の責任として追求しきれないと言う。オリンピックのような大きなスポーツイベントにおいて、スポンサーであったり、組織、国家など、選手を取り巻く環境が、名誉や精神性よりも金メダルと商業的成功を重視する傾向が非常に強く、そのためならば手段は厭わないという風潮に警鐘を鳴らしている。
 そして、オリンピックを健全化する提言として、スポンサー企業の見直し、薬物使用を若いアスリートの教育と育成、そのための集約型選手育成施設の設立、金メダリストのみが賞賛されるのではなく他の競技者へも同様の敬意を払うこと、不正薬物使用で作られた記録を見直し、公平公正な記録を大切にすることなどを挙げている。
 今まで、薬物使用というと、「筋肉増強剤を使う一部選手の問題」という認識があったが、実際には様々な利害関係があり、想像以上に根深く広がっていることがわかった。自分自身も選手を守る立場として、これからもこの問題には意識を持って関わっていきたい。
(西澤 隆)



Robert Voy 著

バレーボールのメンタルマネジメント 精神的に強いチーム・選手になるために

日本では未だに根性論にもとづいた練習で精神力を養ったと自負する指導者が多いため、メンタルトレーニングの導入がなかなか進まないという側面がある。
 タイトルにある「メンタルマネジメント」とはあまり聞き慣れない言葉だが「自己の最高能力を試合等の場面で発揮できるよう選手が自己の心理面を効率的に管理し、コントロールすること」を指す。メンタルマネジメントを獲得するための練習法をメンタルトレーニングという。本書では、個人からチーム単位に応用できるさまざまなメンタルトレーニングについて、論理的背景を含め解説している。また、トレーニングに使うワークシートも掲載され、日々の練習に簡単に導入できるよう工夫されている。
「体の衰えを精神面でカバーできるか? 可能性はある。ただ、その逆はない。気持ちが落ちて、体でカバーできることはありません」これは本書で紹介されているイチローのコメントだが、競技における心理面の重要性を端的に示したものだ。
 高いパフォーマンスを本番で発揮するためには、心理面へのアプローチが欠かせない。過去のやり方を踏襲し根性論での厳しいトレーニングで課題に向き合ったつもりになるのではなく、戦略的な競技力向上を目指す指導者や選手にお勧めの実践的な1冊だ。
(清水 美奈)



遠藤 俊朗 著

練習は不可能を可能にす

 2011年3月の震災以降、日本人は「生き方」を問われている。今まで通り、成長至上主義の道を進んでいいのか?
 哲学者の内田樹は、今の日本についてこんなことを言っている。「今の日本社会に致命的に欠けているのは、『他者への気づかい』が『隣人への愛』が人間のパフォーマンスを最大化するという人類と同じだけ古い知見です」と。
 そして、著書の小泉信三(1966年逝去)は、「夫子ノ道ハ忠怒ノミ」の言葉を、こう紹介する。
「忠とは何か。己を尽くすことであるという。怒とは何か。己を推して人に及ぼすことであるという。今の言葉にすれば忠は誠実、怒は思いやりであろう。そうしてこれが孔子の道を貫く原理であったとすれば、論語を読むと否とを問わず二千五百年後の今日われわれが道徳の原理として守るところも同じではないか。ごまかすな、ずるけるな、自分のことを人の身になって、人のことをわが身のこととして思え、とういうことは今日のわれわれにとっても最高の格律ではないか」と。

 小泉は、慶應義塾塾長のときに、こう訓示している。

一、心志を剛強にし容儀を端正にせよ
一、師友に対して礼あれ
一、教室の神聖と校庭の清浄を護れ
一、途に老幼婦女に遜れ
一、善を行ふに勇なれ
 以上一切を行ふには勇なかるべからず。善の何たるを知るも為さゞれば知らざるに同じ。之を行ふには勇を要す。勇は平生の覚悟と鍛錬とに由りて長ず。善の何たるを知りて之を行ふの勇に乏しきは往々知識人の病弊とせらるゝところなり。

 今、我々「日本人」に必要なのは、決して古い知見として終わらせてはいけない「他人への気づかい」であり、「平生の覚悟と鍛錬」に由りて長ずる「勇」なのではないだろうか。
(森下 茂)



小泉 信三 著

歩くとなぜいいか?

歩くことの効果を問われたとき、生活習慣病の予防、ダイエット、足腰を強くするなど、おそらくいくつも挙げられる。著者は本書の中で、楽しさを中心に歩くことを語っている。
 歩く目的は人それぞれだが、歩くことで目や耳からいろいろな情報が得られたり、新しい発見があり、歩く楽しみを覚える。そして見た植物や建造物が気になり調べてみる。興味や趣味が広がり楽しみが増える。こうしてたくさん歩くようになり、結果的に脂肪や糖の燃焼、免疫力の向上という効果も得られているのである。また著者は歩くことの脳への刺激や骨粗鬆症に対する運動の重要性など、歩くことの効果をほかにもわかりやすくたくさん書いており、興味深くすらすら読める一冊である。
 あまりに日常的な動作である「歩く」ことを、改めて心と身体で感じてみるのもよいかもしれない。
(大槻 清馨)



大島 清 著

21世紀のサッカー選手育成法

この本はドイツで指導経験豊富なゲロ・ビザンツ氏とノルベルト・フィース氏によって書かれたものです。この本はユース編ということですが、小学生からアマチュアなどの社会人チームでも参考になるような基礎のドリブル、フェイントなどから戦術練習、またコンディションに関する部分までもカバーされています。
 私もサッカーに関わる身なので、サッカーに関する多くの著書を見てきました。その中には、わかりやすいようにあえて説明の部分が簡略化されているものが多く見られました。この本に関しては、なぜこの練習をするのか、指導する際のポイントなど、わかりやすく書かれています。練習やトレーニング、ストレッチングや試合に向けての整え方など、サッカーにおける大半のことが図や写真を多く用いてまとまっていて、指導者の方にはとくにぜひ一度見てほしい内容となっています。
(山上 直人)



監訳 山本保博・黒川顯

アトラス応急処置マニュアル

本書はさまざまな応急処置法を記している。ひと通りの症状については詳しく書かれているので非常に便利で重宝する。しゃっくりについてまで書かれているとは驚愕である。
 応急処置器材もどういったものを持っていくべきか書かれているのでかなり参考になる。さらには包帯の巻き方や運搬方法までも細かに書かれている。この一冊があればさまざまな状況にも対応できるであろう。実際の人間を使っているので図にリアリティがあるのも嬉しく、わかりやすい。最近はアウトドアフィットネスの機会も非常に多くなっているので活動の際にはぜひ救急バックに入れておきたい。
(三嶽 大輔)



監訳 山本保博・黒川顯

競技スポーツ別ウェイトトレーニングマニュアル

タイトルの通り、競技スポーツ選手が実践すべきウェイトトレーニングの解説本であり、トレーニング指導者の手引きとなる内容である。理論編と実技編に大別され、どちらも写真や図表を多数用いてわかりやすく解説されている。
 理論編では、競技スポーツ選手のトレーニング指導において、それぞれの競技の特性を考慮したトレーニングプログラムを立てることの意義や役割について述べられており、実技編では、まずは多種の競技に共通するであろう代表的なスポーツ動作に絞って専門的エクササイズを紹介し、次に、タイトルにもあるスポーツ競技別の専門的エクササイズへと章が進められている。
 写真を用いてエクササイズを紹介するという類の解説本は、これまでにも何度となく目にした覚えがある。一見、写真が多数あれば動作を模写できて実践しやすく思えるが、実際にはそのエクササイズの本質まで感じ取るのは難しかったように思う。
 しかし本書での特筆すべき点は、そういった写真や図解だけでは感じ取れない、エクササイズを実践していく上で指導者がふと考えてしまうであろう本質的なポイントに触れてくれているという点である。エクササイズ負荷や回数の設定基準などは指導経験を重ねればこそわかってくることなので、大変ありがたい情報といえる。時折挿入されている「コラム」は、多くの競技指導を経験されている有賀誠司氏ならではの大変興味深い内容となっている。
 エクササイズが第1章から第4章へと段階的にスポーツ競技動作へと結び付いていくあたりも非常にわかりやすく感じた。
全内容を通じて、有賀氏がトレーニング現場の目線で執筆・構成された実践的・本質的トレーニング解説本という印象である。
(弓場大士)



有賀 誠司 著

IDストレッチング

著者は現在名古屋大学の医学部保険学科で理学療法学の教授をされている医学博士。専門は神経-筋生理学やリハビリテーション科学。IDストレッチングは、現在リハビリテーションの学校などで、ボイタ法、PNF、ボバース法、AKAなどと同様に1つの確立された治療技術として紹介されるほどメジャーなものになりつつある。本書の内容は、全4章のうち1章と2章がIDストレッチングというよりも数ある筋の伸長方法を包括的な視点で書かれており、ストレッチングに関する基礎的な知識が多い。そして、3章と4章ではIDストレッチングに焦点が絞られている。
 私だけの解釈かもしれないが、IDストレッチはいわば「特異的な治療方法」とされるような治療方法の枠にはめられているように思われる。しかしPNFやボバース法といったいわゆる特殊技術とされるものは、しっかりとした基礎医学の上に確立されたものである。そういった意味で、このIDストレッチの本書を「特異的な治療方法の参考書」とだけではなく、1つの医学の教科書として読み込んでみることを提案したい。
 IDストレッチ=Individual Muscle Stretchingの名前にもあるように、これはターゲットにした各筋を3次元的にとらえ、より個別的にストレッチする技術を含む。本書では、これらの方法が惜しげもなくフルカラーの大きな写真を多用して説明され、対象となる筋の起始停止、支配神経、血管支配、そして筋連結と、基礎的な情報も詳しく載っている。人の身体を触る上で、解剖・生理・運動学的知識の学習や、単純にストレッチのための参考書としてもかなり力強い著書となっている。
(宮崎 喬平)



編集:鈴木重行

ローイングの健康スポーツ科学

「なんとボート競技への愛情に満ち溢れた本であろうか…」。本書を一読しての正直な感想だ。
 ボート競技は運動強度が高く、かつその持続時間が長いスポーツである。腰部、膝をはじめ身体にかかる負担は決して小さくはない。このような特徴を持つスポーツを「生涯スポーツ」として推奨しているのが本書である。私自身大学時代にボート競技で腰を痛めた経験がある。辛いトレーニングの記憶も残っている。「ボートを生涯スポーツに? 本気ですか?」と真顔で聞きたくなるほど驚いた。
 なぜに筆者は運動強度が比較的高いボート競技を、健康管理のための生涯スポーツとして取り組むことを奨めているのか?
 筆者たちによると、腰部、膝部が受ける衝撃そのものは他の陸上スポーツと比べて低く、身体への負担が比較的少ないこと、有酸素運動を効果的に行うことができること、などから生涯スポーツとして向いているとしているようだ。
 これらの根拠は、やや曖昧であるように私は思う。極端な言い方をすれば「ケガをしないように気をつけてやれば大丈夫だよ」と言っているだけである。
 一方、どんなスポーツ、競技でもケガから無縁なものはないのも確かである。無策のまま身体に負荷をかけ続ければ必ず故障する。ローイングだけが特別故障が多いわけではない。もしローイングが、ジョギングのように各人各様のペースで楽しむことができる環境が整えられれば、生涯スポーツとしての可能性は高まるはずである。
 筆者のボート競技への強烈な愛情を割引けば、構成は強引ながらも論理的ではあるし、ボート競技現役世代でもトレーニングに対する考え方を醸成するには十分な内容に仕上がっている。また他のスポーツの基礎トレーニングに共通する部分も多いので、本書を活用できる範囲は案外広いはずだ。  蛇足ながら付け加えれば、ローイングエルゴマシンはともかく、初心者が乗艇練習を伴うボート競技にいきなり飛び込んでいくにはいささかハードルが高い。それゆえにマイナースポーツに甘んじているともいえよう。本書に興味を持った方が気軽にローイングにトライできるように、初心者を受け入れる体制の整った練習場、団体を紹介するページを設けてもよかったのではないだろうか。
(脇坂浩司)



樋口 満 著

スポーツコーディネーショントレーニング バスケットボール編

本書は、バスケットボールで必要とされるコーディネーション能力を高め、パフォーマンスを向上させるためのトレーニングを紹介している。コーディネーショントレーニングとは、「運動神経を鍛える運動」である。
 バスケットボールのトレーニングを、ボールレッチ、ドリブル、パス、シュート、情報系トレーニング、ディフェンスの6つに分類し、それぞれのトレーニングが、どのコーディネーション能力(リズム・バランス・連結・定位・識別・反応・変換)の向上につながるかがわかるようになっている。また、3段階の難易度表記もあり、写真つきで丁寧に紹介されている。付属のDVDを一緒に使うことで、より理解が深まる。
 本書で紹介されているトレーニングが特殊な用具を必要とせず、バスケットボールだけでコート上でできるということも、実際の現場では導入しやすいトレーニング方法である。コーディネーショントレーニングによって選手の能力を向上させたいという著者の情熱が伝わってくる。
(久保田 和稔)



竹内 敏康 著

転倒予防教室~転倒予防への医学的対応~

人は必ず年を取ります。年をとればとるほど、身体は衰えていくものです。健康のために身体を動かしてい人は多いと思います。
「いつまでも元気な身体でいたい」誰しもが思い、願っていることです。
 本書は「いつまでも…」というクライアントのニーズに応えるために実際の運動指導だけでなく、転倒のメカニズムや身体の特徴、評価方法やチェック表など多く載せられています。また、多くのデータとともに転倒予防教室での指導の流れやシステムなども紹介されており、より現場で使える一冊です。
(大洞 裕和)



武藤 芳照 著

運動会で一番になる方法

著者である深代氏は、日本のスポーツ・バイオメカニクス研究者の第一人者です。トップアスリートの動作分析から子どもの発達段階にあった運動能力開発法まで幅広く研究しています。最近では、テレビ番組の「世界一受けたい授業」に出演し、テレビで目にした人も多くいると思います。
 身体に障害がない限り、誰でも走ることはできます。歩いたり、走ったりといった体験は、みんな山ほどもっています。風を切って疾走したいという願望は、誰もが一度は持ったことがあると思います。しかし、走り方を正しく教えられた覚えのある人は、陸上競技出身者でない限りほとんどいないのではないでしょうか。ましてや、最新のスプリント理論となると、現役のトップアスリートに絞られてくるに違いないことでしょう。
 本書は、世界でもっとも進んでいる日本のスポーツ・バイオメカニクス研究から生まれた、速く走るための“秘訣”(コツ)を、誰でも身につけられるようにまとめたものです。最新のスプリント理論を、小学生向けに応用した実践書です。ちょっとしたコツをつかめば、誰もが見違えるように速く、美しく走れるようになると著者は言います。走りは、大腿の「振り上げ」と「振り戻し」という単純動作です。速く走るためには、エンジンである腸腰筋とハムストリングス、大殿筋といった筋肉を活性化し、それ以外の足の筋肉は重りにならないように太くしないことです。筋力をつけて早く走るのではなく、走り方を身につける。「股関節活性化ドリル」がキーワードです。そんな“秘訣”について、考え方から実践ドリルまで書かれています。
 題名は、『運動会で一番になる方法』ですが、大人になった今から始めてもよさそうな内容です。ランニング愛好家や走ることを含むさまざまなスポーツ愛好家などにもお勧めです。「股関節活性化ドリル」は親子で一緒に始めてもよい内容です。
(服部 哲也)



深代 千之 著

ダンス・コンディショニング 感じてとらえる身体の仕組みと使い方

本書で紹介されるコンディショニング法「シン・ソマティクス」の「shin」は、禅における「中心/芯/心/身/精神」に由来しているとのこと。心身の無駄な力を抜き、呼吸を深め、基本的な動作を無理なく行うことで、通常のダンスレッスンでの自分の身体に対する思い込みを取り去り、今現在の状態を感じ取る。その後、構造や仕組みを学びつつ、合理的な動かし方ができるよう神経と筋肉のつながりを再構築していくというもの。実際には施術やグループレッスンなども行われるようだが、ここでは主に一人で可能な部分について、本と付属のDVDを交互に見ながら取り組めるようになっている。オールカラーで写真や図解が多用され、どのページを開いても美しい。この種の本が苦手な人でも抵抗なく手に取ることができそうだ。
 実際のダンサーの生活はレッスンとリハーサルに明け暮れ、身体を落ち着いて休める余裕を持つことは難しい。また、ダンサー自身が身体の構造や仕組みに対して無知ならば、鏡や教師の言葉が、必ずしも自分の癖に気づかせてくれるとは限らず、逆に癖を強くしてしまうこともある。そういったことにあまり危機感を持てずにテクニックの追求に終始し、疲労とケガを繰り返すダンサーは多い。「身体の状態を良し悪しで決めない」「矯正しようとしない」などの言葉や、鏡を見ないで力を抜き、自分で感じ取るという手法は、そんなダンサーにとっては新鮮に感じられることと思う。本書には、「体の力を抜いて、楽に踊る」ためのさまざまなイメージが丁寧に提示されている。ダンサーの身体感覚を具体的に知りたいトレーナーの方々にも参考となるかもしれない。
 ただし、文中でも述べられているように、筋力や筋持久力の向上のためのエクササイズではなく、あくまでもほぐすこと、リセットすることに重点を置いたワークなので、長年強い癖を修正できなかったダンサー、あるいは強靭な(極端な)筋運動を要求されるダンサーの場合、パフォーマンスの向上につなげるためには、かなり時間を割き、日常的に実践する必要がありそう。まずは、ハードな一日の終わりに筋肉をほぐす目的で試してみるのがいいかもしれない。
(河野 涼子)



岸田 明子 著

スポーツ障害別ストレッチング

タイトルからは一見初心者向けのような内容だと思ってしまいがちかもしれないが、実際の内容は専門的な部分が結構多く、より細かい部分まで理解できる本になっている。細かい表記となっているのは解剖学を含めた解説と、障害のメカニズムを解説しているところなのだが、その部分こそ本書の特徴であり、ストレッチングを実施する上で理解しなければならない部分である。
 そのストレッチングの箇所は図でも表記されていてわかりやすく、これもまたポイントを変えた場合など細かい表記をしている。
 トレーナーとしてはまずメカニズムを理解せねば現場で活用することは難しい。そのメカニズムを理解させることが本書の役割ではないかと感じるほどの濃い内容になっている。
(河田 大輔)



堀居 昭 著

9回無死1塁でバントはするな~野球解説は”ウソ”だらけ~

野球の試合において、セオリーとされている事柄は多いが、はたして合理的理由があるだろうか。こうした疑問に統計学的な観点から答えようとするのがセイバーメトリクスと呼ばれる分野である。セイバーメトリクスの主な目的は、選手の価値分析、能力評価、将来予測の3つである。これらは球団フロント側ではスカウティングや年俸評価、監督側では試合中の選手起用や戦術立案の理論的裏づけに利用されている。野球の戦術・選手の評価について感覚だけで語ることはもはや古く、セイバーメトリクスではセオリーとされている事柄も合理性のあるものばかりではない。
 1点差の9回裏ノーアウト1塁でバントすべきか?「左打者には左投手」は本当に有効か?「バッティングカウント」はあるか? 叩きつけるバッティングはヒットを生みやすいか?…すべて統計による細かなデータの比較で評価していき、数値によって目に見える形で語られるのは面白い。
 後半は統計学的に有意かどうかの考察より、著者の評価分析となっているところも多いが、今後踏み込んでいけると面白い内容だと思う。数値や計算など少々難しい内容であるが、野球を別の視点から見たり、セイバーメトリクスに興味がある方にはお勧めの一冊である。
(安本 啓剛)



鳥越 規央 著

[うおつか流] 台所リハビリ術

毎日の台所仕事を脳の活性化および老化予防という視点から改めて見直し、長い人生を無理なくボケずに楽しみながら食生活習慣の知恵を、笑いという味付けとともに紹介したのが、この“うおつか流台所リハビリ術”。
 料理をする上で必要とされる能力は脳を活性化させる。台所リハビリ術で紹介するその能力とは、思い出し力、想像力、準備力、段取り力、決断力、調理力、もてなし力。日常ごく当たり前にする炊事は、お年寄りが今の機能を失わないようにしながら、この先何があってもひとりでまかなえる力をつける。私たちにとってもメンタルトレーニングとして、料理は手軽な手段だと思った。
 これらの力の中で、私が魅力に感じたのが「もてなし力」。人に見られる仕事、人をもてなす仕事をしている人は、心に張りがある。その張りがその人を前向きにさせる。そして、人をもてなすことで自分も癒されると作者は考える。そう思うと、料理は本当に幸せなリハビリだ。  リハビリというと、病院でセラピストやトレーナーの下、目的とする機能回復のために機器を使い、個別で特別なプログラムを行うことと、多くの人は認識しているだろう。落語調で軽く書かれたこの本を読むと、そんなに難しいものではないなと再認できた。病気で倒れてからリハビリではなく、倒れる前の日常でリハビリすることで倒れずに済む。この本で提案されている台所リハビリは、まさにそれである。
(服部 紗都子)



魚柄 仁之助 著

欧州サッカーの旅

それぞれの国で特徴を持ち、ヨーロッパ人であれば、自国のサッカー、それも地元のチームが一番と必ずいう。本書はその魅力にとりつかれた著者が書いた、自分の経験からそのヨーロッパでサッカーを楽しむための参考書だ。
 スタジアムへの道のりや試合情報や現地でのチケット入手方法、ファンや街の雰囲気などテレビやインターネットでは収集しきれないことも掲載されている。情報としては少し古いが、いずれ現地を訪れてみたいと考えているファンにとっては、想像の手助けになるであろう。
 もし言葉の問題で現地観戦をすることに躊躇しているのであれば、思い切って行動してみることをおすすめする。 言葉の問題だけで現地観戦をする機会を逃すことは、非常にもったいない。現地で何かしら困ったことがあっても、サポーター同士という共通事項で、以外とうまく解決できるかもしれない。
 残念ながらここに掲載されている国はヨーロッパ全土ではなく、贔屓の国やチームのことが掲載されていないかもしれない。またサッカーはヨーロッパだけが盛んなわけではなく、南米や中近東にも非常に個性的なチームが多い。自分の贔屓のチームを探して応援するのもサッカーの楽しみの1つであろう。
(澤野 博)



元川 悦子 著

競技志向と健康志向のスポーツ科学

2009年に発刊された。そして、スポーツ科学の新しいパラダイムを展望しようとしたものであると著者は記している。このことは、本書全体の構成からも理解できるものである。
 本書の特徴は、序章、1章、終章であろう。まず序章では、スポーツ科学における本質的な課題に触れている。それは、遺伝的要因と環境的要因である。スポーツの活動能力は、前者にとってどの程度決められるのか、後者にとってどの程度改善可能なのかを検討している。このような課題を踏まえて1章に進む。スポーツ科学のこれまでの歩みである。温故知新ということであろう。そして、2章~6章は、トレーニングの専門的領域に関連する分野である。これが大変わかりやすい。とくに、ポイントを絞った図解は、各章の図解を追うだけでもその章の全体像をつかむことができる構成になっているようである。これは、これから専門職を目指す読者だけでなく、現場で活動する専門職にとっても大変役立つだろう。最後に終章である。スポーツというものを多面的に検討している。
 本書を通じて、学際的研究という言葉が思い浮かぶ。研究対象となるものが、複数の学問的領域に関連し、それらが総合的かつ協調的に進むことである。スポーツの高度化や大衆化が進む現代のスポーツにおいて、単独の学問的領域だけでは読み解けない部分が大きくなってきていて、飽和状態にあることが著者のメッセージとしてあるのではないだろうか。このような考え方は、スポーツ指導者、スポーツ部門におけるリーダーなどが持つべき観点の1つではないかと感じる。スポーツ科学を局所的な視点だけでなく大局的な視点からも検討するうえで大変役立つ一冊である。
(南川哲人)



宮下 充正 著

アクティブIDストレッチング

身体各部の個々の筋肉(individual muscle)のストレッチング方法を紹介しており、第1章 アクティブIDストレッチングの概論、第2章 アクティブIDストレッチングの実際の2つで構成されている。
 第1章でのアクティブIDストレッチングの基本概念は、同シリーズの「IDストレッチング第2版」と共通するようだ。第2章では各筋群について、機能解剖の基本事項と具体的な伸張方法が紹介されている。1つの部位について、多方向から撮影されているだけでなく、具体的にどの方向に伸張するのかが矢印で適切に誘導されているため、読者の立場からすると大変イメージがしやすい。これは、専門職としてのストレッチングの能力を高めるだけでなく、わかりやすい資料づくりという側面からも大変有効な一冊であろう。
 近年、トレーニング方法と同様にストレッチングの方法についてもさまざまな方法が紹介されている。本書のように個々の筋肉に焦点を当てたストレッチングの方法や筋肉の連結に焦点を当てたもの、読者のライフスタイルに焦点を当てたもの、治療家の治療環境に焦点を当てたものなどさまざまである。大切なことは、その方法について、どのような観点から物事を考察しているのかを理解し、その特徴を適切に捉えることだろう。そして、クライアントの状況やストレッチングを行う環境などからベターな方法を見出し提供できるということである。そして、そのような視点から検討を進めると、改めて基本というものに立ち戻るときがくるときがくのではないだろうか。それは、螺旋階段を1周昇るような質の変化が生じているように感じる。なぜなら、応用や新たな発見というものは、既存の概念や基本事項の組み合わせによって生まれる場合が多いからである。そのようなとき、本書は基本に立ち戻る大きな助けになるであろう。専門職として、常にそばに置いておきたい一冊である。
(南川 哲人)



鈴木 重行 著

泳ぐことの科学

本書は“泳ぐとは何なのか”をメインテーマとし、“泳ぎ”を科学的に説明するところから始まっている。  各泳法の説明や歴史、その泳法の動作(ストロークやキックなど)が“分節化”して解説してあり、また各泳法を専門とするトップスイマーたちの特徴的な泳ぎ方についても細かく記されている。
 ある動作を言葉だけで説明されると、読み手としてはイメージが湧きにくく難しいが、本書は動作の微妙な違いがわかるよう何枚もイラストを並べたり、矢印や線を多用し、イラストとの相乗効果により出来る限り読者がイメージしやすいように配慮されて書かれているのが感じられる。
 しかし、これらは筆者が提示したい“ビルド”を解説するうえでの布石に過ぎない。筆者は、今までほぼ“根性論”で成り立っていた泳ぎのトレーニングを、まずは科学的知見を踏まえ分析・分節化し、次に“パズルのピース”状になった1つひとつの動作を組み立て再構築し、できあがったその“一連の動作=泳ぎ方”を繰り返し練習することで個人に合った泳ぎを獲得できると確信しており、この過程を“ビルド”と称し、今後はそれを目指す方向へ指導方法を切り替えていかなければならないと提示している。
 そして、筆者はあくまでこの考え方は若者や競技者だけのものではなく、中高年の水泳愛好家たちにも適用できると考えており、本書の後半は中高年のための水泳プログラムなども記載されていて、どの世代が読んでも納得できる内容となっている。
(藤井 歩)



吉村 豊 著

皮膚は考える

いつも見ているヒトの身体って、よく考えてみればその大半が皮膚だったりします。知ってはいるもののそれ以外の組織について目に触れるものは髪や爪、あとは眼球の一部くらいのものかもしれません。我々が視覚や触覚で身体だと認識しているものは皮膚についてだけと言ってもいいでしょう。その皮膚についてもせいぜい身体のパッケージというくらいのイメージしかないのが正直なところであり、それ以外のさまざまな機能についてはあまり関心もなく知らないことが多いのが実際のところ。本書は知られざる「皮膚」の役割からその重要性を教えてくれました。
「内臓」に対して皮膚は「外臓」であると興味深い表現を使われていますが、臓器としての皮膚の役割についての説明により、皮膚に対する認識を新たにしました。「保護膜」としての皮膚は我々も知るところですが、病気で内臓を摘出しても死ぬとは限らないが、皮膚がヤケドなどで三分の一ほど失われると死に至ると説明されます。そういわれると皮膚と内臓の重要性は同等のものとして考えるべきだと再認識しました。ともすれば大切にしまわれた内臓と外界にさらされた皮膚とだったら、どうしても内臓のほうが価値が高いように考えがちですからね。
 冒頭から皮膚の重要性を説かれた後に皮膚の機能が明らかにされていきます。免疫と皮膚の関係についてはアトピーなどの問題点に言及します。それだけではありません。ドーパミンなどの神経伝達物質の合成や分解の機能があるといわれたら、まさかと思うのが普通だと思います。そのほかホルモンとの関係に深く関与しているという予想だにしなかった真実が書かれています。さらには皮膚は光を感知する能力があるのではという仮説にも驚きました。
 「皮膚は考える」というタイトルですが、脳と同じ機能を持ち精神をつかさどるという要素もわかってきたそうです。当然皮膚は人の心にも影響があるという最後の部分はインパクト十分。軽く見ていた皮膚もあまり知られていなかった役割を理解すれば、その付き合い方も変わり、快適な生活を送ることが可能になるのではと感じました。
(辻田 浩志)



傳田 光洋 著

早稲田大学競走部のおいしい寮めし

You are what you eat(あなたは、あなたが食べるものでできている)。
 この本の中の言葉だが、まさにその通りである。速く走り、高く飛び、遠くへ投げるためには、それに見合った身体が必要であるのは当然のことであるが、その人の活動量に必要なエネルギーの供給、それだけではなく快適な身体を維持し、疲労を残さない、そして何よりも心に栄養を与える、それが食の役割である。
 早稲田大学競走部の寮監として食事の面で選手をサポートしている管理栄養士の福本健一さんは、アスリートと一般の方の食事は基本的には同じで、プラスアルファとしてエネルギー代謝や体調管理、ストレスや貧血対策などの選手が抱える身体の問題を意識して、食べる量やタイミング、質などを選手の状態に合わせて変えていくことが必要といい、強い心と身体をつくるごはんを目指している。
 本書には栄養素と食品、必要なエネルギー量や栄養バランスだけではなく、実際に寮で選手が食べているメニューがたくさん紹介されている。見ていると本当に美味しそうだ。選手が「とにかく美味しい」「ご飯の時間が好き」と言っていることでもわかるように、競技のために「食べなくてはいけない」のではなく、自然に「食べたい!」と思う寮めしを理想にしている、と福本さんは言う。身体は資本。ぜひ参考にしてもらいたい本である。
(大槻 清馨)



福本 健一、礒 繁雄 著

近日掲載予定
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