ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
回復力 失敗からの回復
畑村 洋太郎
筆者は東大の工学部の名誉教授である。工学という、失敗学とは一見全く違う分野の専門家として日本最高峰の領域で学生を教えた中で、失敗学を専門とした理由は深い。生死を分ける様々な失敗を身近で体験した筆者が、失敗した当事者がどのように失敗と付き合い、どのようにすれば復活できるかを伝授しているのがこの本だ。
彼が失敗談を聞いていく中で強く思ったのは「人は弱い」ということだった。人は失敗によってダメージを受けると、穴が開いたような状態になってエネルギーが漏れていってしまう。つまり、ガス欠状態だ。そんな時は自分の弱さを受け入れることがはじめの一歩となるというのだ。
また、失敗に立ち向かえないときの応急処置も載っている。面白いことに一番は「逃げる」、そして「他人のせいにする」「美味しいものを食べる」「お酒を飲む」「眠る」「気晴らしをする」「愚痴を言う」と続く。
今の日本では、頑張って正当性を主張したところで報われるほうが少なく、大抵はいびつな議論に負けて挫折してしまうことも多い。自分に非があると自覚しているときに、それを素直に認めることのほうが態度としては正しいだろう。しかし、この社会では失敗した人が非を認めると、そのときからそれが絶対的な真実として扱われる。そして、弱いものは徹底的に叩かれるのである。それに対して筆者は、周りからの責任追及に決して潰されないこと、必要に応じて逃げるなどの一時避難をして、何をおいても生き続けることが大切だと訴える。
人は誰でも失敗する。そして、誰もがそこから回復するための力を持っている。乗り越えるために必要なのは、そのものと正対して生きていくためのエネルギーをつくり出すための考え方。それを筆者は失敗学を通して導く。失敗も成長のために積極的に取り扱おう、とポジティブになれる一冊だ。
(服部 紗都子)
カテゴリ:人生
タグ:リハビリテーション 失敗学
出版元:講談社
掲載日:2014-08-08