ATACK NET ブックレビュー
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松岡修造さんと考えてみたテニスへの本気
坂井 利彰
2014年、錦織圭選手が全米オープンで準優勝という快挙を成し遂げて以降、テニスに熱い視線が注がれている。テニススクールに行けば、錦織選手に続かんとばかりに多くの子どもたちがコートで練習に励んでいる。そんな彼らの口からは、将来の夢として「世界ナンバーワンになること」や「ウインブルドンで優勝する」などといった発言が普通に飛び交う。これが錦織以前の時代であれば、ただの世迷言としか捉えられなかったであろう。錦織選手の活躍が、子どもたちの意識の中に「もしかしたら自分も」という現実味を高めているのは確かかもしれない。しかし現実はそう甘くない。プロ選手になったとして、納得いく成績を残して現役生活を全うすることがいかに難しいことか。
著者によれば、錦織選手やいわゆるビッグ4の選手などはみな早熟型だという。幼くして才能を開花させた彼らは、海外に渡るなどして練習環境に恵まれ、エージェントやスポンサーと契約することで活動資金においても不安はない。しかし現実を見れば、プロを目指すすべての子どもたちがこれに当てはまることはない。テニスの人気が上がりより身近になることが、自ら目標のハードルを身の丈以上に上げてしまっているようだ。よって、錦織選手と同じレールをたどっていけないと見るや、プロ選手になる夢を簡単にあきらめてしまう傾向があるとのことである。
著者や松岡修造氏に言わせれば、世界ランキングトップ100に入るだけでもどれだけすごいことか。ましてや早熟型のように子どものうちから海外に出ることだけがプロへの道ではないのだ。日本では幼い頃から競技一筋でやってきたジュニア選手が、大学進学が契機となってプロになることを諦めてしまうのをよく見聞きするが、大学はプロになることの対極にあるものではないだろう。現に米国では、全米大学体育協会(NCAA)が主催するカレッジスポーツが、プロスポーツに負けない人気と商業的成功を収めている。著者が提唱するように、大学がジュニアとプロとのハブ機能を持ち、選手のセカンドキャリアも含めた計画的なマネジメントができれば、プロ選手として晩成型のキャリア形成を確立する一助になるだろう。
この本はテニスに留まらず、プロを目指しているジュニア選手とその指導者にうってつけである。今後のキャリア形成を考える上でぜひ参考にして頂きたい。
(水浜 雅浩)
カテゴリ:指導
タグ:テニス
出版元:東邦出版
掲載日:2016-04-12