ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
すぐ役に立つ 脳と心の介護予防フィットネス
石井 千惠 小関 潤子 松浦 亜紀子 梅田 陽子
老いと死はいつかは受け入れなければなりません。それを知らぬ人はいないはずなのに、具体的に考えたり対策を立てている人ってごく少数のように見受けます。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といいますが、喉元に来る前にも熱さを認識していない人が多いのも事実。結局、自分がその事態に直面しないと意識できないというのが一般的なのでしょう。私も認知症になった母親の介護を初めて6年になりますが、本人はもとより家族の負担も少なくないのは承知しています。老いと死から逃れられないのは仕方のないこととしても、それに抗うことをあきらめてしまうのは別問題。どう抗ってもダメなケースもありますが、予防することで老化による問題を少しでも軽度にとどめられる場合もあるはずです。介護度がひとつ上がるだけでも本人や家族の負担は大きく変わります。
ある介護のセミナーを受けたとき、私が後期高齢者になる20年後には認知症の方が爆発的に増えるという予測を聞きました。本書にも同じ指摘がありますが、そのときの介護制度が決して見通しのいいものではないことは予感しています。
本書は介護予防の在り方をわかりやすく解説したものです。広がりつつある介護予防が現在どのような形で現場で行われているかの紹介から始まります。抽象的な話ではなく、実際に行われているそれぞれの現場の様子や体験談がいくつも紹介されていますので、正確に雰囲気が伝わってきます。認知症と老齢期のうつにテーマを絞っていますが、認知症やうつの知識についてもきちんと説明されています。
本編はやはりエクササイズ。目的別にプログラムが整理され、どういう目的でそれぞれの運動をするかきめの細かい解説が記されています。認知機能向上エクササイズ「e-エクササイズ」は必見。こういうところまで研究されているのかと驚きました。
その他にも介護に携わる方にとって必要な知識が満載。介護制度というのは予算の都合で頻繁に制度が変わります。将来的に介護予防にシフトされるとき本書の知識は役に立つでしょう。
基本的に介護職に従事されている方を対象に書かれたものだとお見受けしますが、願わくば介護職に就く方だけではなく、近い将来身近な問題になるであろう私たち50代や60代の人にも読んでいただきたいです。介護される立場になって慌てるよりも、先に手立てをしておきたいという方にも役立つ本だと思います。
(辻田 浩志)
カテゴリ:運動実践
タグ:介護予防
出版元:誠文堂新光社
掲載日:2016-05-12