ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
声に出して読みたい日本語
齋藤 孝
この著者の本『身体感覚を取り戻す』はすでに紹介した。その本では「腰肚(こしはら)文化」と「息の文化」という言葉が日本の文化の柱として使用されている。
「かつては、腰を据えて肚を決めた力強さが、日本の生活や文化の隅々まで行き渡っていた。腰や肚を中心として、自分の存在感をたしかに感じる身体文化が存在していた。この腰肚文化は、息の文化と深く結びついている。深く息を吸い、朗々と声を出す息の文化が身体の中心に息の道をつくる。……身体全体に息を通し、美しい響きを持った日本語を身体全体で味わうことは、ひとつの重要な身体文化の柱であった」(P.202 より)
本書では、日本の古典、漢詩はもとより、口上、浪曲、いろはかるたなど、様々なジャンルから引用、暗唱、朗誦を勧める。
今、漢詩や芝居の文句を日常の会話にはさむ人は少なくなった。「言ってもわからない」から。平均的素養はかなり低くなったとも言えるし、コンピューターやTVゲーム、ケイタイなどデジタルなものが、その代わりになっているとも言える。
だが、やはり文芸廃れて国滅ぶ、と言いたくなる。なにより、生活での会話がつまらなくなる。先日みたテレビで渡辺貞夫さんが小学生にタイコを教えていたが、まず大きな声を出させた。でも出ない。「もっと大きく」「もっと大きく」と繰り返した。なかなか大声を出せない子ども。やがて大声が出せるようになる。それは必ず、身体と動作のありようと関係しているだろう。
「少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず」と、朗誦し、やや老いた身体を伸ばしてみた。確かに、声は身体の一部であると納得する。
四六判 214頁 2001年9月18日刊 1200円+税
(月刊スポーツメディスン編集部)
カテゴリ:身体
タグ:声
出版元:草思社
掲載日:2001-12-15