ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
「わかる」とは何か
長尾 真
「あいつはわかってない」「それでわかった」「そうだろうと思うけど、でも分からない・・・」
私たちの日常「わかる」という言葉を頻繁に使う。「分かる」は「分ける」であるとも言われる。だが、「わかる」とはいったい何がどうなることか。
このテーマに、現在京都大学総長である著者が平明な記述で挑んだ。著者の専攻は「情報科学」であり『人工知能と人間』『電子図書館』などの著書もある。
当然、1つの科学分野のみで語れる話ではない。大きな章題を並べると、「社会と科学技術」「科学的説明とは」「推論の不完全性」「言葉を理解する」「文章は危うさをもつ」「科学技術が社会の信頼を得るために」の6つ。
その「言葉を理解する」の章で、著者は「わかる」というレベルを説明し、「第一のレベルは、言葉の範囲で理解することであり、第二のレベルは、文が述べている対象世界との関係で理解することであり、さらには第三のレベルとして、自分の知識と経験、感覚に照らして理解すること(いわゆる身体でわかる)というレベルを設定することが必要であろう」と記している。
そして、科学技術の文章においては、第二のレベルまでの理解でよいとしつつも、第三のレベルの理解が必要という場面も出てきたとする。「たとえば遺伝子操作、クローン生物、臓器移植、脳死判定といった問題になると、理屈の世界でわかっただけでは私たち人問は納得できず、感情的体験的世界においても納得することが必要であり、これを避けて通ることができなくなっているのである」日々接する情報の量は夥しいが、「わかる」ものは実は少ない。「わかること」から考える必要は確かにある。
(月刊スポーツメディスン編集部)
カテゴリ:その他
タグ:科学 理解
出版元:岩波書店
掲載日:2002-01-15