ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
基礎から学ぶ スポーツセルフコンディショニング
西村 典子
アマチュアスポーツでは、アスレティックトレーナーが毎日現場にいて選手の対応にあたることは難しい。そのため、週1回やそれ以下のサポートでもよりよいサービスを提供するために、選手への教育やセルフコンディショニング指導が欠かせない。
タイトル通り、本書はアスリート向けに書かれている。内容は①ケガ予防、②コンディショニング、③生活習慣を見直す、という順に書かれている。特筆すべきは、ケガ予防の章で初めに出てくる具体的な疾患名が「脳出血」であることだ。脳出血は「3H」(Head=頭部外傷、Heart=心臓、Heat=熱中症)の一つとして紹介されており、命に関わるケガを初めにもってきていることと、順番が前後するが、表紙の見返しに「自分の体と向き合うことを大切にしてほしい」とつづられていることから、本書を読むアスリートへの強いメッセージがうかがえる。
アスレティックトレーナーの私がこの本を読む価値は一体なんだろうと考えたときに、本書をそのまま選手に渡すことも考えたが、思い当たったのは選手との「コミュニケーションツール」としての利用である。アスリート向けの内容のため、専用用語は少なく、平易で理解しやすい言葉で解説されている。トレーニング指導で選手に伝える際にはそのまま使うことが可能だ。
内容が怪我や治療に偏ることも、トレーニングに偏ることもなく、アスリートがどうすればよいコンディションを保ち、練習や試合で高いパフォーマンスを発揮できるか、「選手が欲しい情報」を過不足なく一冊にまとめているので、セルフコンディショニング指導の内容そのものの参考にもなる。
著者は西村典子氏、本書の冒頭に第0章という形で、著者が大学時代をサポートしたプロ野球選手とのインタビュー記録がある。「プロアスリートや日本代表選手をサポートしたことがある」トレーナーは散見されるが、選手個人の登場は珍しい。選手からの信頼と著者の実績を証明している。コロナウイルスの影響でスポーツ活動が自粛され、対面指導が困難な今、「STAY HOME」でできるパフォーマンスの維持・向上対策としてぜひ参考にしていただきたい。
(川浪 洋平)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:セルフコンディショニング
出版元:日本文芸社
掲載日:2020-05-04