ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
復刻新装版 ランニング
金栗 四三 増田 明美
著者の名は「かなくり しそう」と読む。日本マラソンの父と呼ばれ、日本人初のオリンピック選手である。大河ドラマ『いだてん』の主人公といえば、ご存じの方もいるのではないだろうか。私は彼を、100年先の未来から来たトップアスリートと呼びたい。
本書は1916年(大正5年)に発刊された「ランニング」の復刻版である。マラソンに関する技術的な解説以外にも、食事や休養、運動時の服装やシューズにいたるまで事細かに書かれているが、その内容は100年前に書かれたとは到底信じられないほど「最新」であった。その一部を引用して紹介しよう。
「さてこの心身の調和したる発育を達成するには、単に駈歩(走る練習)ばかりでは不足する傾向がある。この他にもなにか運動をして各筋肉や、関節を動かすことが大切である」
「脚は駈歩には直接他(上半身など)よりも関係があるから、十分脚の筋肉や関節を強くし自由に運動をできるようにしておかねばならない」
なんと金栗は今から100年も前に、競技練習以外に筋力トレーニングやストレッチを行い、筋力や柔軟性を向上させる重要性について認識していたのだ。それも長距離走でである。これが私が金栗四三を「100年先の未来から来たトップアスリート」と呼ぶ理由である。
本書はただ当時の技術解説書の枠を越え、金栗から私達へのスポーツ発展を願うメッセージと言えよう。私達が未来へ何を残していくべきか。本書を読めば見えてくるかもしれない。
(川浪 洋平)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:ランニング マラソン
出版元:時事通信社
掲載日:2020-10-24