ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
脱・筋トレ思考
平尾 剛
筋力トレーニングの有効性や重要性がトレーナーやアスリートの間だけでなく、一般の方にも共通の認識となりつつある中、刺激的なタイトルである。しかし、本書は筋トレを否定しているわけではない。
「脱・筋トレ思考」とは、まえがきの言葉を借りると、勝利至上主義(勝てばいい)、商業主義(稼げればいい)など目に見えてわかりやすい目的や目標に向けて、単純で安易な手段を選び、「これをやっていれば大丈夫」と考える思考停止の状態を言うようだ。
確かに筋トレをすれば試合に勝てるかというと、そのほかにも考慮しなければならない要素は山ほどあることは間違いない。
その上で筆者は「身体知」が重要であると述べる。身体知とは言語化・数値化が難しい動作のコツやカンのことで、本書はこのコツ・カンを理解し実践するための方法論が展開されていく。が、コツやカンを習得することは非常に困難である。習得のためにあーでもないこーでもないと試行錯誤する時間を筆者は「うまく立ち行かない場面」と呼んでいる。これはスポーツの枠に収まらず、人生全般に言えることで、辛抱強く、腰を据えて取り組み、時には「のんびり時間をかける」ことも必要であり、そうすることで「しなやかさ」が身につき、「ふくよかな人生」を送ることができるのだと。なるほど、これが「脱・筋トレ思考」ということか。
本書は日々スポーツにおける技術の向上に取り組むアスリート本人や、スポーツ技術・戦術の指導に携わるコーチ・監督にぜひ読んでいただきたい一冊である。また、本書を読み終えたときに「筋トレは必要ない」という「筋トレ思考」に陥らないように注意が必要であることを付け加えておく。
(川浪 洋平)
カテゴリ:指導
タグ:トレーニング
出版元:ミシマ社
掲載日:2021-05-21