ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
武道vs.物理学
保江 邦夫
バイオメカニクスは人の動作の仕組みを物理学の手法を使って解明しようとする営みである。我々トレーナーにとっては運動指導をする上で避けては通れない重要な分野であるが、トレーナーを目指す学生はもとより、資格を取得済みの現役トレーナーにとっても非常に難解な分野である。
本書では、武道の技を物理学とバイオメカニクスによって分析していく。が、武道という伝統を重んじる領域で、話が突拍子もないところへ飛ぶ。飛びまくる。
たとえば柔道の投げ技をロボット工学で分析し、ブラジリアン柔術とフィギュアスケートの共通点を指摘し、果ては空手の突きを宇宙物理学で論じる始末である。最終章では筋電図まで出てくる。物理の範疇を越えているではないか。
ところが驚いたことに、そのような目まぐるしい展開も、筆者の軽妙な語り口(本なので文章なのだが)のおかげでストレスなく読み進めることができた。読み終わった感想は「なんだ、物理学ってそんなに難しいものじゃないんだな」である。
私自身、学生時代は教科書とにらめっこしてただ唸るしかなく、試験はほぼ丸暗記で耐えていた側の人間なのだが、本書を読んで「あのときのあれは、こういうことだったのか」と理解することができた。
あなたがバイオメカニクス分野に苦手意識をお持ちなら、手に取ってみてはいかがだろうか。
(川浪 洋平)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:スポーツバイオメカニクス 武道 物理学
出版元:講談社
掲載日:2021-06-03