ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
スポーツ現場で知っておきたい薬の話
原田 知子
薬の話と聞くと、私自身も苦手意識が強まり、避けたい話題と感じてしまう。アスレティックトレーナーとして、スポーツ現場で活動しているときに非常に苦手な分野だった。今思うと、薬のメカニズムを本当には理解しようとせず、薬がもたらす身体への作用を自分の知識で説明することが難しいと感じていた、単純な苦手意識だったと稚拙に感じる。
本書、第1章にある「身体に対して何らかの効果をうたっているものはすべて医薬品とみなされ、薬事法の規制を受けることになる。」ということがさらにその気持ちを助長させていたのではないかとも感じたが、読み進めるとそうではなかったことに気づかされる。身体に何らかの作用を謳うことはスポーツの業界でも散見するが、必ずしも法の規制を受けているわけではない。医薬品も同様であることを丁寧に説明してくれている。
本書は薬の効果効能だけでなく、その薬を使用したときの身体反応や細胞レベルでの反応、いろいろな形で起こる相互作用まで解説してくれている。直接、薬とは関係のなさそうないわゆるトクホ(特定保健用食品)の話やジェネリック医薬品、食品の話など、アスリートに関係すると思われる様々な視点で解説してくれている。
また、コロナで話題になった、薬やワクチンができるまでの話など、通常聞けない専門書に書かれているような話を分かりやすく解説してくれている。さらに、薬の管理やドーピング、海外への持ち出し、特に他国への持ち込みなど、スポーツに携わるスタッフの非常に大きな問題を大変分かりやすく解説してくれている。
スポーツ現場で運動指導に当たる関係者の中でも、アスレティックトレーナーは医療関係者とアスリートの間でコンディショニング調整を行う必要がり、薬の話は知るべき内容であることは疑う余地はない。周知の事実として、ドーピングコントロールという概念が求められるため、アスリートが薬を服用する場合は、アスリートやアスリートを支えるスタッフは、一般的な効果効能以上に気を付けて服用しなくてはいけないということをさらに強く感じることができた。
それ以外にも最後に書いてくださった選手教育に関しての話は、指導者やアスリートに一番近い在存の親子さんたちにとっても大切なことであり、一番基本的なコンディショニング把握の一歩目になることが、本書を通して実感することができる。本書は薬のことについて質問を受ける可能性のある人にとっては、必携の一冊といっても過言ではないと痛感する。
(河田 絹一郎)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:薬学 ドーピング
出版元:ブックハウス・エイチディ
掲載日:2021-07-26