ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
ランナーのためのメンテナンス・トレーニング 競技力向上につながる「ケガしない体づくり」
中本 亮二
近年トレーニングが変わりつつあります。パフォーマンス向上を目的として身体を鍛えるという点においては今も昔も変わりありませんが、トレーニングそのものよりもトレーニングを行う前の段階が飛躍的に変わってしまい、そしてまだこれからもさらなる進化が期待できそうな気がします。「トレーニングを行う前の段階」とは「いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように」という5W1Hのようなトレーニングの意義を細かく整理したうえでもっとも効果的なトレーニングを実践されているということです。とにかく人一倍鍛えるという姿勢そのものは悪くありませんが、ケガのリスクや鍛えるべき選手の状態とトレーニングの内容、目的に対する有効性など多くの問題点を考慮することがなければレベルアップの度合いに疑問符が付きます。近年はそういった問題を直視することでトレーニングの成果が問われる時代になったということなのでしょう。
前置きが長くなりましたが、本書は「ランナーのためのメンテナンス・トレーニング」というタイトルにまず対象者や目的が盛り込まれています。しかも「パフォーマンス向上」という包括的なものではなく「ケガをしない体づくり」という絞り込みが表紙からも伝わります。スキルアップなどを目的とした専門的トレーニングの土台という位置づけで「メンテナンス・トレーニング」の必要性を説かれています。ケガをしたら専門的な技術も水泡に帰すことは誰もが知っていることではありますが、それを具体的に示すことは意外に難しいことなのかもしれません。それこそが本書の意義ではないかと思います。しかもこういった説明は「はじめに」という序章に集約されています。さらにランナーの身体づくりに必要な項目の整理も本編に入る前に書かれています。お読みになる際はぜひ序章をしっかりお読みいただき、ご理解いただきたいです。そうすれば本編で紹介されるエクササイズの数々がブラッシュアップされたものになることでしょう。
本編で紹介されている多くのエクササイズには以前から知っているものもありました。ただそれぞれのエクササイズには「目的、回数、頻度、タイミング」が必ず示されています。これが新たな価値を付与していると思います。今まで何となくやっていたトレーニングの中にもランナーが抱えている問題点の解決の糸口になりうるものに変わっているかもしれません。目的がハッキリすれば自ずとやり方も変わってくるでしょう。傍目から見たら今までと同じトレーニングに見えても、当事者には今までとは全く違ったことをしているくらいの意識が持てるでしょう。
あくまでも本書は「ランナーのための」という限定がかけられてはいますが、お読みいただき本書の主旨が理解できれば、この考え方はあらゆるスポーツにも共通するはずです。きめ細かく紹介されたエクササイズも読みごたえがありますが、まずは冒頭29ページまでをしっかりお読みいただければと思います。
(辻田 浩志)
カテゴリ:トレーニング
タグ:トレーニング ランニング メンテナンス
出版元:ベースボール・マガジン社
掲載日:2021-10-23