ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
不幸に気づかないアメリカ人、幸せに気づかない日本人
小林 至
当然のことながらスポーツ界にも影響を及ぼしている構造不況、リストラ。「そんなことで参っていることはないよ」というメッセージがこの本からは伝わってくる。それは、序文にある「それにしてもすごい国をつくったものだ」というアメリカから見た日本への賛嘆句からもわかる。ウェブ編集長や雑誌のコラムなども担当した小林氏だけに非常にテンポよく書かれており、「不幸に気づかないアメリカ人、幸せに気づかない日本人」がすんなり頭に入ってくる。
さて内容だが、小林氏が1994年にアメリカに渡って感じたこと。そして、4年間住み着いたフロリダ州オーランドをさらなければならなかった理由から“物語”は始まり、オーランドを2000年9月25日に発って同年ワシントン州シアトルに着くまでの車の旅話が、アメリカの文化や経済を介して進んでいくのである。そのほとんどが、不幸に気づかないアメリカ人の話で、それがわんさか出てくる。アメリカに希望を抱いている人には、「別に行かなくてもいいか、日本に居よっと」と思わせてくれるくらいの情報量で、ちょっと間違えば毒舌と言われてしまうだろうが、観光ではなく実際に住み着いてわかることばかりだから棘がない。
スポーツの話も、皮肉混じりに述べられているから読みやすいということもある。例えば、アメリカ人は実はオリンピックに無関心だったり(マスメディアの影響もあって)、ヨーロッパへのコンプレックスでサッカーに見向きもせず、マラソンや柔道にはまるでマイナースポーツ扱いであること、などなど。
そして最後に、「今こそ日本の出番だ」ということになるが、日本のよさに比べてアメリカ批判が多いというアンバランスをさっ引かずとも面白く読める本である。もうそろそろ、スポーツ界でも両手を挙げての「アメリカ礼賛」をやめなければという声が聞こえてきそう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
カテゴリ:その他
タグ:文化
出版元:ドリームクエスト
掲載日:2002-03-10