ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
Change! みんなのスポーツ
みんなのスポーツ全国研究会
Change!
1979年5月に、粂野豊先生(仙台大学名誉学長)の指導の下創刊された月刊「みんなのスポーツ」は、スポーツが社会的機能を有する文化であることを理論的ベースにして、いち早く市民による市民のためのスポーツ振興を訴えた月刊誌である。現在は、全国体育指導委員連合の機関紙として親しまれているが、その内容を支えたのは「みんなのスポーツ全国研究会」で発表された研究結果であったという。そして、この研究会のメンバーが中心となって最初に刊行されたのが「みんなのスポーツQ&A」(1985年)であった。
今回刊行のはこびとなった「Change! みんなのスポーツ」は、「そして(研究会立ち上げから)20余年後の今、また1つの研究会の節目として、変わりゆく現代社会における市民スポーツ・地域スポーツへの指針を会員の総力をあげて打ち出したいとの総意から」企画された、いわば続編である。しかし、タイトルがやさしいからといって内容もそうかというと、なかなかこれが読み応えのある内容に仕上がっている。
何が足りないのか
本書の前半はオムニバス形式で、現在の日本のスポーツが何から何にChangeしなければいけないのか、執筆者各々が乾坤一擲、各テーマに対し正面から取り組んでいる。
本書で一貫して取り上げられているテーマは、「今日本のスポーツに足りないものは何か」であって、それを補うことがChangeに繋がるというのである。たとえば、執筆者のひとりは、指導者が足りないと説く。「日本のスポーツ集団は、指導者不在で簡単になくなってしまう。学校運動部がそのよい例で、熱心に指導する顧問教諭が転勤すれば、たちまち運動部はつぶれてしまう……」これは、一般のスポーツ愛好会やサークルでも同じことが言えるという。そこで、他の執筆者は、これからの指導者には指導型から支援型への意識変革が求められていることを行政担当者も認識する必要があるとしながら「スポーツ指導者の知識・技能審査事業の文部科学大臣認定制度」による認定指導資格取得者の確保をしようと提案している。また、「民間活用」が足りないと説く執筆者もいる。そこでは、公共施設の維持管理や事業運営を民間事業者に委託する、いわゆるPFI(公設民営)方式の推進を訴えている。そのためには、行政と民間の連絡協議会の設立を、という提案は傾聴に値する。
自立しよう
結局、本書のねらいは市民スポーツ、もしくは組織としての地域スポーツの創出であって、具体的には「総合型地域スポーツクラブ」の設立に向けた理論構築であると思う。あらゆる年齢の人々が、自らが選んだスポーツを、所属するクラブで好きな時間に楽しむ。すでにヨーロッパに存在するこの組織を日本にも定着させようという試みが、近年盛り上がりを見せている。しかし、日本のスポーツは明治以来、学校や職場を中心に振興が図られ、仕事への意欲喚起装置としての役割が長かった。ヨーロッパのように日常生活の必需品としてスポーツが存在するのとはだいぶ訳が違う。この差を埋めるには、まだまだ長い時間を必要としそうだが、なによりもクラブの主体である参加者、あるいは国民の意識の変革が必要なのではないか。今まで行政主導でやっていたものを住民主導にする。もちろん財政的自立も視野に入れ、クラブ運営も自らが行う。こういった自立ができて、初めて“みんなのスポーツ”と言えるのではないか、こんな提案も本書に含まれている。スポーツを愛するすべての人々に読んでいただきたい、まじめな一冊である。
(久米 秀作)
カテゴリ:その他
タグ:スポーツのあり方
出版元:不昧堂出版
掲載日:2003-02-10