ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
勝利のチームメイク
岡田 武史 古田 敦也 平尾 誠二
すべては疑うことから始まる
私は、最近つくづく自分が疑り深い性格の持ち主であることに気づいたのであります。それを知るきっかけとなったのが今回ご紹介するこの本です。私の深い、深い疑問は編集担当者からこの本をいただいたときに端を発しています。
本は岡田武史・サッカー元全日本監督(現在横浜F・マリノス監督)と平尾誠二・ラグビー元日本代表監督、そして古田敦也・プロ野球ヤクルトスワローズ捕手ら三氏の対談を収録したものなのです。日本で人気のあるスポーツの、それも過去に代表監督を経験していたり、現在日本の代表的選手である三氏が「勝利」をテーマに対談して何が悪いのかと読者の皆さんは思われるでしょう。でも、私は疑り深くこう考えてしまうのです。「監督、選手と立場も違う三氏が対談して、話がかみ合うわけ?」。そして、私はまたまた「なぜこの本の出版社が日本経済新聞社なわけ?」と疑ってしまうわけなのです。つまりこの本の出版元の意図は、チームを管理することに長けた三氏を会社の管理職になぞらえ、スポーツにおける勝利を会社の利潤になぞらえて、こんな風に三氏にならって部下を管理してみてはどうでしょうか、と言いたいのかなと疑るわけであります。もう、ここまでくると病気だと本人も気づいているわけですが……。
勝利のためのチームメイクとは
もし私と同じように疑り、会社の部下の操縦法を期待して本書を手に取る読者がおられるならば、やめておいたほうがよいと思います。本書の中に収録されている対談の内容は、我々のようなスポーツを専門とし、日々選手と過ごしている者にとっては大変興味深い内容だからです。たとえば平尾氏は「チームワークは勝ったチームに[結果]として現れるものだ」と言っているし、個々の自立があって初めてチームプレーが成立すると言っています。また、岡田氏は「チームメイクとは選手の長所を利用させてもらうこと」と言っています。彼は「選手の邪魔をしないようにするのが指導者なのだ」とも言っております。そして、古田選手は「勝つためには捕手はなるべく、監督やコーチ、投手とのコミュニケーションをとるように心がけて」、さらに監督が要求している内容を理解し、その投手が持っている性格や投球哲学を理解して「それぞれの投手の力が最大限発揮できるようなリードを自分なりに考えていきます」と述べています。ぜひ、スポーツを専門としている人々、とくに指導者には読んでもらいたい内容が満載ですね。
えっ、平尾氏の言っていることは、基本的に会社を成り立たせている社員のあり方を考えるうえで参考になる? 岡田氏の意見は、部下をいかにうまく動かし、活かすかに通じるところがある? さらに古田選手の意見は中間管理職としてのスタンスを決めるのにはよいアドバイス? ということは、読み手によってはスポーツ場面だけでなく、いろいろな方面で彼ら三氏の対談内容は応用可能ってことですか? うーん、どうやら出版元の意図にまんまと乗ったのかな? また、疑り深い性格が頭をもたげてきたようです。
(久米 秀作)
カテゴリ:指導
タグ:コーチング
出版元:日本経済新聞出版
掲載日:2003-09-10